『ひなまつり』と面々の力関係――護衛騎士(その1とその2)は思う


「明かりを点けましょ。ぼんぼりに~♪」

「……」


 ああ、姫様が何やら歌っていらっしゃる。


「姫様。その歌とそこに飾られているのは何ですか?」

「んー? これは折り紙で作ったひな人形。歌は『ひなまつり』だから、何となく?」


 また、姫様の口から聞いたことのないものが……!

 あと、レオン。視線で俺に「早く姫様に聞け」と促すのは止めろ。


「えーっと、『ひなまつり』、とは?」

「全国の女の子の日。特に小さい子メインじゃないかなぁ」

「……それだけ、ですか?」

「それだけ、だよ? 私に詳しい説明を求めないでよー。博識でも、行事に詳しい訳でもないんだし」


 笑いながら言う姫様だが、正直なところ、知らないならやるな、である。


「後は、春らしいお菓子を食べることかな。雛あられと菱餅は絶対必要よね」


 本当、どこからそんな知識を仕入れたんですか……。


「……って、ん? 『女の子の日』があるなら、『男の子の日』もあるんですか?」

「あるよー。二ヶ月後にね。あ、でも、『子供の日』って呼ばれてるから、一概に『男の子の日』とも言えないか」

「えー、それって、女の子は二度もお祝いされるってことじゃん。ズルくない?」

「上から顔を出して、話すのは止めなさい。ルゥ」


 話を聞いていたのか、ルゥが部屋の――天井の隙間から、逆さま状態で会話に参加してきたので、姫様に注意されている。


「えー」

「『えー』じゃないでしょ」


 ルゥが文句を良いながらも、天井の隙間から降りてくる。


「まあ、どんな行事だろうと、大切な人と過ごせたり、美味しいお菓子とかが食べられると思えば楽しいでしょ?」

「姫様の場合は後者が完全に目的ですよね」


 察しました。


「……リューク。貴方が私に喧嘩を売ってることは分かった。それじゃあ、貴方の分のひなまつりのお菓子はいらないということで」

「ちょっ……!」


 何でそうなる!?


「もー、リュークってば。女心が分かってないなぁ」

「お前にだけは言われたくない」


 姫様ならともかく、何故ルゥに言われなくてはならないのだ。


「俺にそんなこと言っていーの?」

「……何だよ」

「リューク」


 レオンに呼ばれたので振り返れば、「もうこれ以上、何も言うな」とばかりに、首を横に振られる。


「姫様とルゥを相手に、口で勝てると思うのか?」


 それを言われてしまうと、反論できない。


「あははは! レオンにも丸め込まれてやんのー」

「……あいつ、マジで一回シメてやろうか」

「止めとけ。向こうの方が、そういうことに関しては本職だ」


 そんなの、こっちも分かってるが、今もなおニコニコとしているあいつに腹が立つ。


「姫様、姫様。やっぱり、姫様の騎士様たち面白ーい」

「……やっぱ、あいつシメる」

「リューク、どうどう。ルゥも煽らないの」


 今度は姫様に宥められる。


「えー」

「『えー』じゃ、ありません」


 二度目だからか、ペシッと姫様がルゥの頭を軽くはたく。


「姫様、暴力ぼーりょく反対はんたーい!」

暴力ぼうりょくじゃありません」


 ルゥの訴えに、姫様があっさりと返す。


「リュークも、私がきっかけとはいえ、ルゥの煽りに乗らないの」

「……」

「貴方の方が年上なんだから、受け流すか、余裕がある素振りぐらい見せてちょうだいよ」

「姫様、それば無理だよー」

「――ルゥは、少し黙りなさい」


 姫様の一睨みで、ルゥが完全に黙り込む。

 声のトーンが本気マジトーンだったので、黙らざるを得なくなったらしい。


「分かった?」

「……はい」


 返事をすること以外の選択肢があるだろうか。


「レオンも。似たようなことが起きたら、受け流してちょうだいよ?」

「はい」


 姫様の言葉に、レオンはあっさりと頷く。

 きっと、このメンバーの中で立ち回るのが上手いのはこいつだろう。


「さて、それじゃあヴィーも呼んで、お菓子でも食べましょうか」


 普段通りの姫様の言葉に、内心では安心しつつも、「そうですね」と返し、呼びに行くこととなった。


   ☆★☆   


 ぎゃーぎゃーと目の前で、一つの菓子やちらし寿司の具材(主にカニ)を巡り、同僚たちが騒ぐ。

 そこで呼ばれていたヴィーが、部屋にやって来る。


「失礼します……あの、レオンさん。これは一体……」

「まあ、見ての通りだ」


 そう言われても、訳が分からないよなぁ。

 だから、事の経緯を話したのだが――


「えっと、最終的に何の話をしていたんですか? 何か話がコロコロと変わっていて、分からなくなったんですが」

「最初は『ひなまつり』とやらのことだったんだが……もう、こうなると関係ないな」


 遠い目をした俺は悪くないはずだ。


「ほら、二人とも早く来ないと無くなっちゃうよー?」


 姫様がそう声を掛けてくる。


「行くか」

「はい」


 そして、姫様たちの方に向かって歩き出す。





 ここに居るのは、みんな姫様直々に声を掛けられた者たちだ。


『わたし、この人を護衛にする! この人たちなら、任せても大丈夫だから!』


 まだ子供だった姫様のその一言で、俺とリュークは護衛騎士に。


『どうせ戻っても死ぬと言うのなら、貴方、私直属の諜報員にならない?』


 自分を殺しに来たであろうルゥ相手には、そう告げ。


『それなら、好きなだけ魔法を使わせてあげるし、研究もさせてあげる。もちろん、必要とあれば、研究費を与えたり、実験体にだってなってあげる。――だから、私直属の魔導師にならない?』


 こちらがヒヤリとするようなことを平気で口にし、ヴィーも『仲間』になった。


 ――みんな、姫様の声掛けで集まった。


「レオン?」


 不思議そうに、こちらを見てくる姫様あるじに、「いえ、何でもありません」と返し、目の前に出された紅茶と菓子類に手を付ける。


 ――もうすぐ、春が来る。


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