『バレンタイン』


「はい、私からのプレゼント」


 珍しく全員揃って、姫様から差し出されたのは、小さな包み。


「何ですか、これ」

「今日って、何かの記念日でしたっけ?」


 俺たちには心当たりが無いのだが。


「んー、記念日といえば記念日だし、違うといえば違うかなぁ」

「どっちなんですか」

「だって、バレンタインだし」


 バレンタイン?


「……って、何ですか?」


 そう聞けば、姫様は数回まばたきした後、「あー」とか「うー」と唸る。


「基本的には、好きな人や大切な人に想いを伝える日――ってことになっているんだけど、今じゃもう友人同士やお世話になった人たちに、主にチョコを渡したり、交換し合う日ってことになってるんだよね。というか、後者がメインと化してるというか」

「ということは、これは姫様の気持ちってことですか」

「そうはっきり言われると答えにくいけど、日頃から貴方たちには迷惑とかも掛けてるし、お礼とこれからもよろしくという意味も込めて、ね」


 照れ臭そうに顔を逸らす姫様が、少しばかり可愛らしく見えて、思わず笑ってしまう。


「ちょっ、笑わないでよー。つか、いらないなら返せーっ!」

「嫌ですよ。姫様のことだから、俺たち一人一人への中身が違うんでしょ?」


 以前、姫様は俺たちの好みと食べられないもの(苦手なもの・・・・・ではなく、アレルギー対応のためだとか)は、正確に把握しておきたいと言っていた。

 それ以降は、俺たちが嫌がるようなものは渡されないし、もし、アレルギーがあるなら、それを引き起こさないように、その人はみんなと別の料理が与えられたりもしていた。


「そりゃあ、嫌がられたりしたくないもの。中身も見ずに捨てられるのは、もっと嫌」


 ご安心を。貴女の護衛たちは、貴女からの贈り物プレゼントをそう簡単に捨てたりはしません。


「大丈夫ですよー」

「きちんといただきますから」

「むしろ食べない方が失礼ですから、保管なんてことはしませんよ」

「あ、お返しどうしよ……」


 それぞれそう言えば、「当たり前よ。あと、ヴィーはお返しは気にしないで」と姫様から返される。


「今回は、本当に純粋な・・・気持ちだから」


 それはつまり、これまで又はこれからは他意ありということですか?


「今回は良いけど、『お返しは三倍返し』っていう合言葉があるから」

「知りませんよ、そんな合言葉!」

「嫌だなぁ。合言葉や言葉のあやってだけで、本当に実行して、三倍返しなんてする訳ないでしょ」


 あははー、と笑う姫様だが、もしこれからこの日に何か貰ったら、お返しを考えておこうと思う。

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