第19話 悩みは文章を駄目にする
パチパチパチパチ。
僕は黙々とキーボードを叩き続けていた。
今日は休日だから、外に出ないで一日中執筆活動に明け暮れていたのだ。
やはり、まとまった執筆時間が取れるのは嬉しいね。自分のペースを保って集中できるから、普段の日よりも筆の進みが良いよ。
午前中に家事を片付けて買い物を済ませてしまえば、午後は丸々パソコンに向かっていられるし。
お陰で、今執筆中の小説は十話まで更新できた。
静かな環境が、僕に書く力を与えてくれているのだ。
──そう。静か。
僕がアオイと喧嘩して以来、アオイが僕の頭の中に現れることは一度もなかった。
ひょっとしたら、何も言わないだけで僕のやることを陰から観察しているのかもしれないが──
僕のやることにあいつが口を挟んでくることは、なかった。
元々鬱陶しいと思ってた奴だ。静かになってくれて清々するよ。
あいつが現れる前に戻ったのだと思えば、特別何かを思うこともない。
このまま一人で、この小説を完成させてみせる。
そう意気込んで、僕は完成したばかりの十一話を投稿した。
……うん。いつにないハイペースだ。いい感じ。
執筆に使える時間はまだまだある。今日はこのまま寝る前まで書き続けてやるぞ。
そして、あいつが帰ってきた時に驚かせてやるんだ。
………………
……このまま、帰ってこないつもりなのかな。あいつ。
つい勢いで色々言っちゃったけど……あんな返し方をされるとは、思ってなかった。
僕から生まれたような奴だから、てっきり僕みたいな返し方をすると思ってたのに。
ああいう言い方をされると、普通に言い合いになった時よりも、心に来る。
ちょっと言い過ぎたかな。つい、そう思ってしまう。
なあ、アオイ。
お前が僕のことを思ってあれこれ言ってくれてたことは、分かってるんだよ。
お前が親身になって色々と僕に言ってくれてたから……僕は、色々なことにへこたれないで前を向いて頑張ろうって気持ちになれたんだ。
もう、僕の面倒を見るのは嫌になったのか? こんな奴とは付き合ってられないって、思ったのか?
そんなことは思わないでくれ。
どうか、僕のことを見捨てないでくれ。毒舌はいくら吐いてもいいから、僕のことを見守っていてくれよ。
キーボードを叩く手が止まる。顔は俯き、パソコンの画面から目を離してしまう。
僕は、自分で思っていた以上に──
あいつのことを、掛け替えのない相棒だって思っていたようだ。
その相棒を無碍にするようなことを言ってしまった過去の自分を、
できることなら今すぐ止めに行きたい。ぶん殴ってでも制止してやりたかった。
……叶うはずも、ないけど。
はぁ、と溜め息をついて髪を掻き上げる。
こんな気分じゃ、とても執筆なんてできない。ネガティブな思考が文章に表れてしまう。
気分転換にサイトの徘徊でもするか。
僕は書きかけの小説のデータを保存して、WEB小説投稿サイトのページを開いた。
ベルマークに赤い印が付いていた。
しかしそれを見ても、僕の気分は弾みはしないのだった。
このまま、アオイと決別するようなことになってしまったら……
ひょっとしたらあるかもしれない可能性のことをちらりと考えて、唇をきゅっと引き締める。
しばらく、この沈んだ気分は続きそうである。
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