第16話 他人の技術は盗め
第四話を書き始めて三日が経った。
完成するまでにはまだ時間がかかる。
最後のところで少々悩んでいるのだ。
このまま無難に終わらせて次で盛り上げるのが良いのか、それとも此処で一気に盛り上げてしまうのが良いのか。
考えるのは僕だ。こればかりは人に訊いて仕上げるものではないので仕方がない。
タイピングが止まった手を見つめながらあれこれ考えていると。
それを邪魔するかのように、アオイが横から口を挟んできた。
「書かないの?」
「見て分からないのかよ。締め括りを必死に考えてるんだよ」
キーボードの上から手を下ろして、腕を組み。僕は溜め息をついた。
「ここをどう書くかで読者を惹き付けられるかどうかが決まるんだ。いい加減に考えるわけにはいかないからな」
「三十分も動かないからどうしたのかと思ってたけど、そういうことだったのか」
僕の言葉に納得したのか、そっかとアオイは頷いた。
そして、こんな話を切り出した。
「ねえ。詰まった時は素直に人に訊いてみたら?」
「は?」
僕は目を瞬かせた。
「人に訊くって……訊けるようなことじゃないだろ。これは僕が書いてる小説の問題なんだから。僕が自分の力でクリアしなきゃ意味ないだろ」
「訊くっていっても、本当にその辺の人を捕まえて訊くってことじゃないよ」
アオイはWEB小説投稿サイトのページを開いて、と僕に言ってきた。
何だと思いながら、それに従う僕。
いつも見ているサイトのページが目の前に現れる。
WEB小説コンテスト……もう三百人の人が応募してるんだな。流石年に一度の祭典だ。
何気なくコンテストのピックアップを見つめていると。
「他の作家の作品を読んで、読者を惹き付ける物語の運び方を勉強するんだよ」
人気を集めてる作品を読んでみなよ、と彼は言った。
他の作者の作品を読むことは、時々はやっている。僕は書くだけじゃなくて読む方も好きだから。
でも、それは純粋に自分が面白いと思える小説を見つけるためであって、自分の書き方を勉強するために読むといったことはしていない。
それは人真似になるんじゃないか──と思うからだ。
僕が黙っていると、僕の胸中を覗いたかのように、アオイは笑いながら言った。
「文章をそのまま真似るのは駄目だけど、書き方を勉強するのは盗作にはならないよ。他の人の良い技術はどんどん盗んで自分の力にしなきゃ。せっかくこんなに勉強のための作品が並んでるんだからさ、活用しなきゃ損だって」
他の人の良い技術は遠慮なく盗め。そして自分の武器にしろ。
小説家になるために貪欲になれ、というのがアオイの言葉だった。
貪欲に、か……
僕はコンテストのピックアップに載っている作品のひとつをクリックした。
冒頭を何となく読みながら、この人はこういう書き方をしているんだなぁ、と思う。
今まで勉強のために人の作品を読むといったことはしたことなかったから、何だか新鮮に目に映る。
そうか……技術を学ぶ、か。
人の作品から学んだことを吸収して、自分の技術に昇華させればいいのだ。
何で、そんな簡単なことに今まで気付かなかったのだろう。
僕は自分のオリジナルを作ることに意固地になっていたせいで、頭が固くなっていたのかもしれないな。
「自分にないものを持ってる作品を読んだ時、気付くことはあるはずだよ。ひょっとしたら類が悩んでいることも、あっという間に解決するかもしれないよ?」
「……うん」
僕は肩に張っていた力を抜いた。
「詰まってたところだし、気分転換がてらに休憩するよ。作品巡りをして、いい締め括りが書けるように少し考えてみる」
「それがいいよ」
でも読むことに夢中になって時間を使い切らないようにね、と念を押して、アオイは静かになった。
さあ、読むぞ。コンテストに応募している作品がどれほどのレベルのものなのかを見させてもらおうじゃないか。
僕はぐっと腕を伸ばして、目の前の小説に意識を集中させた。
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