第15話 辛辣な感想ほど価値がある
第三話を投稿して二日が過ぎた。
自主企画に参加しているお陰か、閲覧数は少しずつ伸びている。
このまま作品の人気がどんどん出ていってくれればいいなと思っていた矢先のこと。
作品に付けられたひとつのコメントによって、僕は心臓を搾られるような思いをすることになった。
「初めまして。『耄碌魔王に守らせたい十の公約』を読ませて頂きました──」
このWEB小説投稿サイトには、作品を応援すると書くことができる応援コメントという機能がある。
その機能を使って書かれたそのコメントは、丁寧な挨拶と共に始まった。
『タイトルに惹かれて三話までをざっくりと拝読したのですが、主人公である魔王のインパクトが他のキャラクターに比べて弱いように感じられました。魔王の下僕たちの方が台詞も多いし、性格がはっきりしているので目立っているように思えます。まだ物語は始まったばかりなので今後魔王が主人公らしく振る舞う場面が出てくるのかもしれませんが、今のままだと話としては魅力が弱いかもしれません。』
読者からの駄目だしである。
自信を持って書いていた作品だっただけに、この言葉は僕の胸を深く穿った。
まさか駄目だしされるとは夢にも思っていなかったのだ。
『今後の盛り上がりに期待しています。執筆頑張って下さい。』
「…………」
僕はくしゃりと前髪を掻いて、俯いた。
それを見ていたのだろう。アオイが声を掛けてきた。
「清々しいくらいの駄目だしだね」
「……僕はこの作品に自信を持ってた」
僕は呻くように呟いた。
「賞賛されるかもとは思ってたけど、まさか駄目だしされるなんてな……」
僕の言葉を聞いたアオイが、ぷっと吹き出した。
「類。それは自信過剰って言うんだよ」
けらけらと大笑いして、彼は僕の呟きをあさっての方向に蹴り転がした。
そんなに滑稽だったのか、くっくっと笑いの混じった声で、言う。
「でも良かったじゃない。まだ話数の少ないうちに駄目だししてもらってさ」
「駄目だしの何処がいいんだよ」
僕は頬を膨らませた。
「作品をけなされたんだぞ。それを良かったなんて、冗談でも言っていいことと悪いことがあるんじゃないのか」
「感想ってのは欠点を指摘してくれたものの方が価値があるんだよ」
分かってないなぁ、とアオイは呆れた声を漏らした。
「作品の欠点っていうのは、自分ではなかなか気付けないものだからね。それを指摘してくれるなんて何て有難いんだろうって思わなきゃ。愚痴を言うなんて間違ってるよ」
「…………」
……確かに。
こうして言われなければ、主人公の印象が弱いなんて気付くこともなかったかもしれない。
今こうして気付いたから、何とかしなきゃって思ってるわけだし。
これが何十話と続いている状況で気付いたのだとしたら、きっと簡単には修正できなかっただろう。
そう思えば、今指摘されたことは……ラッキーだったのか?
「貰った感想は作家にとっては大事な宝なんだよ。良いものも悪いものも、しっかり自分の中に吸収して作品に生かさなきゃ。それができて初めて、作家は良い作品作りができるんだからさ」
……そうだな。
今言われたからこそ、僕は作品の中にあった『主人公の印象が弱い』という欠点を潰すことができるんだ。
そのお陰で、僕の作品はまたひとつ力のある作品に成長することができる。
確かに……感謝しなきゃ、いけないよな。これは。
僕はふーっと深く息を吐いて、小説のデータを画面に呼び出した。
既に投稿している第一話にカーソルを合わせて、自分なりに此処が問題なんだろうと思える箇所の文章をごっそりと削っていく。
「……何してるの?」
「もう一度、考え直してみるよ。問題の場面を」
アオイの問いかけに答えながら、僕は文章を削ったところに新たな文章を書き加えていく。
「せっかく意見を貰ったんだ……この人が次に僕の小説を読んだ時に『おっ』って思ってくれるような内容にしてみせるよ。僕が書きっぱなしで終わらせるような小説家じゃないところを見せてやるんだ」
「そっか」
ふっ、とアオイは優しく笑った。
「僕も楽しみにしてるよ。どんな話になるのか」
「ああ。完成したら、見せるよ」
今日の執筆時間は文章の修正だけで終わりそうだな。
でも、いいんだ。これが未来の結果に繋がることなんだと信じて、頑張ろう。
それから僕は、何度も書いて消してを繰り返しながら、就寝時間が来る前に何とか三話分の改稿を終えたのだった。
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