第11話 投稿時間を意識してみよう

 僕が作品の第一話を投稿して、三日目。

 気にしないようにしようとしていてもやっぱりちょっとは気になってしまう閲覧数は、二十にまで伸びた。

 やはり新着の連載作品の掲載から外れると、人目につく頻度が落ちるな。

 今後は作品の存在を人に知らせるためには、とにかく更新して新着小説の一覧に掲載させなくては駄目だ。

 でも、僕だって人間だ。どうしても小説を書くスピードには限界があるし、何よりスピードを重視したせいで完成度が落ちたなんて有様にはしたくはない。

 とはいえ、このサイトを利用している人たちに、僕の小説は此処にあるよと声高に叫びたい。

 どうすれば、数多くある作品の中から僕の小説を見つけてもらえる? 読んでもらえる?


「投稿時間を考えるのも、作家のテクニックのひとつだよ」


 悩んでいると、アオイがそう助言を口にした。

 僕は目を瞬かせて、彼に尋ねた。

「投稿時間?」

「類は、作品を投稿する時に投稿時間のことは考えてる?」

 そんなことなど……気にしたこともない。

 いつも、自分のペースで書いて、完成したら即投稿するという形式を取っていた。

 僕が手塩をかけて作り上げた物語を、少しでも早く皆に知らせたい。そう思っていたから。

 そう言うと、アオイはそっかと言った後にこんな話をし始めた。

「日本のゴールデンタイムってね。大体二十二時頃なんだよ。知ってる?」

 二十二時……っていうと、午後の十時か。

 確かに昼間は仕事をしている社会人は、自分の時間を夜に持っていることが多い。

 その人がとんでもなく早起きで早朝に活動しているという場合もあるが、この際それは考えないようにしておく。

 社会人よりは自由時間の取れる学生も、自分の部屋で趣味に時間を費やすのは大体それくらいの時間だろう。

 僕も、小説を書いたりしたりネットを見たりするのはその頃の時間帯だ。

 MMORPGなんかのパソコンを使ったゲームでは、その頃が最もプレイヤーが増える時間帯なんだそうだ。

 それと投稿時間と、一体何の関係が?

「その頃にインターネットの利用者が最も増えるんだ。その分サイトも利用されてるってこと。その時に合わせて作品を投稿すれば、新着情報がより多くの人に見てもらえるんだよ」

 成程。人の目が最も向けられている時に投稿することによって、人目につきやすくなるということか。

 でも……それって同じことを考えている作家が他にも大勢いたら、その分新着情報が過密になって情報が流れちゃうんじゃないか?

 尋ねると、それはあるかもねと笑い混じりの返答が返ってきた。

「でも、駄目な可能性を考えて何もしないよりは、希望を掴むために少しでも動いた方がいいでしょ?」

 ……そうだな。そうだよな。

 やって損することは何もないんだし、それなら何もしないよりは何でもやってみた方がいい。

 人目につく頻度が増えれば、それが読んでもらえることに繋がるかもしれないし。

 今日から早速実践してみよう。

 ……と言いたいところだが、それをやるに当たって問題点がひとつある。

 僕は頬を掻いて、呟いた。

「……二十二時までに完成させられる自信がないんだけど」

「……そんなことまで責任は持てないよ。僕」

 呆れ声でアオイは僕の言葉をすっぱりと斬った。

「作品の完成時間を調整するのは作家の仕事のひとつだよ。ほら、僕に愚痴る前に書いた書いた。後少しでできるんでしょ?」

「……分かったよ」

 僕はふうっと息を吐いて、丸まっていた背筋を伸ばした。

 投稿時間のために執筆速度を上げるつもりはないけれど、これからは少しは時間のことも意識して書くようにしてみよう。

 やっぱり時間にメリハリを付けた方が、気持ちも引き締まるしね。

 僕は時計をちらりと見て、もう少しで完成する第二話を書き上げるために執筆を再開したのだった。

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