第9話 初日は純粋に閲覧してもらえたことを喜ぼう
新作の一話目を投稿して一日目。
反応は、あった。
閲覧数を見てみると、数字が五にまで伸びていた。
しかし、それだけだ。
フォローや感想はまだない。当然レビューもまだない。
まだ一日目だから感想やレビューがないのは当たり前のことかもしれないけど、この数字はちょっと残念だ。
今回の作品は自信作だから、もう少し反応があるって思ってたんだけどな。
閲覧数を見ながら僕が肩を落としていると、それを笑うようにアオイが言った。
「投稿して一日目なのに凄いね」
「何処がだよ」
僕は頭の後ろで手を組んだ。
「五だぞ。たったの五! 自信作だったのに……」
新しい作品は『新着の連載作品』の項目に掲載される。
新作作品はそう頻繁に出るものじゃないから、新着小説の項目よりも長く作品が掲載されることになる。
新作小説は、普通の更新作品よりも長く人の目に触れるものなのだ。
それなのに、たったの五しか閲覧数が伸びないなんて……
そのことを分かっているのかいないのか、アオイはくすくすと笑った。
「だって、投稿して一日目なんだよ? それで五人の人に読んでもらえてるんだもの。快挙じゃないか」
閲覧数五が快挙?
アオイの言葉は続いた。
「未来の名作だって、最初は興味を持ってもらうまでに苦労してるんだよ。スタートラインは皆一緒なの。類の作品は、そんな中早速五人の人に興味を持ってもらえた……これを快挙って言わないで何と言うのさ」
……でも、人気作は投稿話数が少なくても、一日に何百って閲覧数が伸びてるじゃないか。
それと同列視するのは、流石に……
そのことを言うと、やれやれと呆れた声をアオイは漏らした。
「上ばっかり見てたらきりがないよ。そんなことばかりしてたらいつか転んじゃう。まずは自分の作品が人に興味を持ってもらえたことを素直に喜ぼうよ」
たった五人の人にでも、僕の作品に興味を持ってもらえたことを喜ぶ。
これが第一歩なのだと思って、続きを書く。
それが小説家には必要なことなんだよとアオイは言った。
「言ったと思うけど、閲覧数のことは気にしちゃ駄目だよ。どうしても気になるって言うのなら、今日はこれだけの人に自分の作品に興味を持ってもらえたんだって考えるようにしなよ。興味を抱いてくれた人に届くような作品を書き続けていれば、いつか結果が実になるんだからさ……名声は最初から求めちゃいけないんだって」
せっかく作品に興味を持ってくれた人をがっかりさせないように、これが自分の描きたい世界なんだと主張できる作品作りをする。
仮にその結果、興味を失われてしまったのだとしても──
それも、何故自分の作品に興味を持たれなくなってしまったのかと考えるための力になる。
閲覧数を一喜一憂の材料にするのではなく、自分の作品をより良くするための糧にするのだ。
そうすれば、小説を書くことがもっともっと好きになれるはず。
そっか……
僕は目を閉じた。
僕は結果を焦りすぎて、小説家にとって何が重要なのかということを見落としていたんだな。
そんなんじゃ、人を惹き付けるような小説なんて書けるはずがない。
「……たった五人。されど五人。か」
ふう、と息を吐いて。
僕は目を開けて、パソコンの画面に視線を向けた。
そっと閲覧数を表示しているページを閉じて、書きかけの小説のデータを呼び出す。
「まだ一日目だもんな。これからなんだって信じて、続きを書くよ」
「むしろこれからが勝負なんだよ。それを忘れないで。大丈夫、頑張ればその分だけ得るものはちゃんとあるはずだからさ」
頑張れ、とアオイに背を押され。
僕は第二話を書くべく、キーボードに手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます