第5話 時には宣伝することも大事

 夜。寝床に入った僕は、布団を被ってスマホの画面を一生懸命に操作していた。

 何をしているのかって? これは、宣伝活動である。

 せっかく小説を書いて投稿しても、それが人目に付かなかったら意味はない。

 サイトの新着小説リストなんて一瞬のうちに更新されてすぐにリストの外に埋もれてしまうからね。

 長く作品の公開情報が残るように、アプリを利用してネット上に情報を落としているのだ。

 情報を見てくれた人が興味を持ってくれるように作品のアドレスを貼り付けて、興味を惹くような宣伝文句を一生懸命に考えて。

 ある意味、この作業には小説を書く時よりも神経を使っている。

 ネットの世界は本当の顔も名前も見えない場所だから、ちょっと誤解されればすぐにそれが拡散して広まってしまうし……

 何と涙ぐましい努力をしているんだろうって自分で思う。

 よし、こんなものかな。

 出来上がった宣伝の言葉を読み直して、僕は送信のボタンを押した。

「へぇ。作品の宣伝してるのか」

 ネット上に公開された情報を見て、アオイは感心の声を漏らした。

「作品のことが少しでも多くの人に知られるように努力するのは良いことだと思うよ」

 アオイが僕のやることにケチを付けないなんて珍しいこともあるものだ。

 僕はスマホを枕元に置いて、冷えた手を布団の中に突っ込んだ。

「これで、少しでも反響があれば書いた甲斐もあるんだけどね」

 苦笑する僕に、アオイが怪訝そうな声を発する。

「ないの? 反響」

「情報が拡散されたことはないかな」

 言ってて悲しいとは思うが、僕の公開する情報は大抵の場合は公開したらそのままで終わることが多い。

 いいねを押されることもないから、正直言って情報が広められることはないに等しいのだ。

 他の人が発している情報は結構な数のいいねを押されて拡散されているというのに……

 こんなところでも、僕は万年底辺作家の気持ちを味わっている。

 伝えたい情報を多くの人に興味を持ってもらうためにはどうすれば良いのだろう?

 僕が悶々と考えていると、アオイが元気付けるように言ってきた。

「でも、見てくれている人はきっといると思うよ」

「……何でそう自信満々に言えるんだよ」

 反響がないということは、誰にも興味を持たれていないかもしれないというのに?

 僕の呻くような問いかけに、アオイは笑いながら答えた。


「閲覧数はいいねの数で決まるわけじゃないでしょ?」


 僕は沈黙してしまった。

 確かに、いいねを押されなかったからといって、それが情報を見てもらえなかったということとイコールになるわけではない。

 反応はなくても、情報が何らかの形で人目についている可能性はゼロではないのだ。

 むしろ、そっちの方がネットの世界では当たり前なんじゃないかって思う。

 閲覧数が確認できるWEB小説投稿サイトのような場所が特別なのだ。

「情報を公開することも、小説を書くことと一緒だよ。やらなかったら読まれることもないんだから……反応がないからって諦めないで、公開し続けなよ。いつかきっと、それが結果に繋がる日も来るよ」

 アオイは前向きだ。もしもずっと反応がなかったら……なんてまるで考えてもいない。

 その心の強さが羨ましいなと、僕は思った。

「……情報公開は続けるよ。これからも」

 僕はそう言って、静かに目を閉じた。

「こんな僕の書く呟きでも、拾ってくれる人は一人くらいならいるかもしれないからさ……」

「そうだね」

 アオイは相槌を打った。

「諦めないで続けること。それが結果をものにするための第一歩だよ」

 こいつ、僕の中にいる存在のくせに、まるで僕を教育している先生みたいな奴だ。

 苦言を吐いたかと思えば、的確に心を突いてくるようなことを言って、僕をやる気にさせて。

 ……こんな奴に四六時中見守られている僕は、実は凄く幸せな人間なんじゃないだろうか。

 そう独りごちながら、僕は抱えていた意識を手離して夢の世界へと旅立ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る