キアラちゃんの"ばれんたいん"作戦【短編】

@loli-kon999

キアラちゃんの"ばれんたいん"作戦!

「やよいちゃんやよいちゃん!

異国では、2月14日の"ばれんたいん"になると

好きな男の人に"ちょこれーと"ってやつをあげて気持ちを伝えるんだって」


「それでね、あのイケメンに"ちょこれーと"をプレゼントしたいの。

渡せるかなぁ」


小柄な赤い髪の女の子は、向かいの席に座る女友達に、目を

キラキラ輝かせながら前のめりでそう言った。


「キアラ、あんたもイケメンが好きだわね……。渡せる渡せない以前にさ、

異国の"ちょこれーと"って奴の作り方、知ってるの?」


友達は呆れ顔で、頬杖をながら冷笑する。


赤髪の少女は友人の冷めた態度に、ふくれっつらで不機嫌そうだ。


「し、知らないけどさぁ。私んちお母さんが外国人だし、きっと

知ってると思うんだ。多……分」


そんな顔も可愛らしいこの少女。名を"キアラ"という。

黒い髪に黒い瞳が多いこの国の人たちとは少し違い、赤い髪に

青い宝石のような瞳を持っていた。

色白な肌、それでいて小柄な体格、ふっくらとした健康的な体つき(デブとは言ってない)

この国の女の子たちに支給される異国式"せーらー服"がとても似合っている。


友達である"やよい"は、見るからに愛らしい彼女に少し嫉妬しつつ、

異性に対して積極的になりきれない様を愛おしくも思っていた。

こちらも異国式"せーらー服"を着用している。


「キアラのママが料理してるのみたこと……」


「一応おにぎりは作れるらしい」


「逆におにぎり握れなかったらやばいよ!?」


「だめそうですねこれは」


「うーん……」


目の前で悩む赤髪の少女をどうにかして助けてやりたくなった

友達は、真っ黒い髪の毛をいじりながらアイデアを捻り出す。


「そーだ! 国立図書館に行けばなんかわかるんじゃない?

異国についての書物もいくらかあったはず……」


彼女の言葉に、赤髪の少女は自分側のテーブルを両手で


バンッ


と叩き、身を乗り出す。


「それだ! さっそく行ってみようよ!」


国立図書館は、先ほどまでキアラたちが居た喫茶から

少女の足で10分ほどかかる所にある。


しばらく談笑しながら歩くと、すぐにその場所へは着いた。


探しはじめて数分後、赤髪の少女は上を眺めながら、呆然と立っていた。


「異国のお菓子について書かれた本があったにはあったけど」


「あたしが届かないんじゃキアラじゃもっと無理だわね」


赤髪の少女がハッ、と何かを思いついたように友達へと近づく。

そして、両肩を持ちながら


「やよいちゃん、私が両手で持ち上げるから、あそこにある本

とって!」


「えっ、あたしのほうが力あるのに何で上!?」


「いいからいいから」


赤髪の少女が、両手で友達の足を支え持ち上げる。

異国式のセーラーはスカートの丈がとても短く、やよいが履いている

可愛いレモン柄のパンツが丸見えになってしまった。


「あっ、ごめ、み、みてないから……」


「何で女同士なのにそんなこと気にしてんの!?

おっ、とれたとれた。おろしていいよ」


黒髪の友人は、ちょっと乱れてしまったつやつやの髪を

整えながら書物を読んでみた。


「なになに、あった。これが"ちょこれーと"かぁ。

カカオ豆から作るのは大変なので、普通は市販のやつを

湯煎し溶かして型にいれ固めます……」


「市販……?」


「……」


どうやら、"ちょこれーと"という物を原料から作るのは

素人には無理らしい。


二人は落胆の表情で、このあたりで一番大きな市場へと向かった。

ここなら、異国のお菓子も置いてある可能性が少しはある!


輸入物を扱うお店をなんとか探し、黒髪の友達を先頭にして

中へと入っていった。


カウンターにいる怪しいヒゲを蓄えた東洋人に、

恐る恐る彼女たちは話しかけた。


「あ、あのぉ~、すいません。ここに"ちょこれーと"っていう

黒い甘いお菓子、置いてありますか?」


ヒゲの男はその問いに、目を大げさな笑顔に変えて

怪しさを50%ほど増やした上で言った。


「おー。なんとも可愛いお客さんアルね。

実は普段なら売るナイけど、ワタシ黒髪女子大好きなので

特別に自分用ストックを売ってあげるアルよ!」


彼は怪しげな片言の言葉を操り、後ろを向いた。

装飾が施されたきれいな棚を開けると、そこには西洋の文字が

びっしり書かれた包みが……。


少女たちは思わず身を乗り出す。


「おおお!! これが"ちょこれーと"!!

なんか、ちょういいにおいがするっ」


「キアラ、これもうあたしたちで食べちゃおうか?」


「だめだよー」


「お姉さんたち超カワイイからオマケするのコト。

普通なら1000ニャンするが200ニャンでいいアルよ」


ヒゲの男からスーパー安価で、この国では高級品なる"ちょこれーと"を

買えた二人。

無駄にかけあしで帰路を急いだ。

ふたりが放ついい匂いが、そのへんの農道に行き渡った。


図書館で借りた書物を片手に、黒髪の友人が話す。


「えー、まず作り方としては……」


左手に包丁をバッチリもった赤髪の少女は、気合十分といった

表情で前かがみに指示を待っている。


「いつでもどうぞ! やよいさん」


まずチョコを刻みます

湯煎します。あせらずゆっくりね

テンパリング(やり方はググれ)します

固めます。かんせいっ


「か、簡単にいうなぁ。チョコは四枚しかないのに」


尻込みする赤髪の少女に、友達は腰に手をあてながら

本を持っている手を高々とあげる。


「まずはやってみよう! 失敗をおそれるな!」


「う、うん」


……。


「あっ、なんだこれ固まりはしたけどバリバリに……」


……。


「謎の白い模様が」


……。


「なんとかいい塩梅のができた!」


やっと一粒のハート型チョコが出来上がった頃には、

四枚あった大判の板チョコは全て消えていた。


顔がチョコで汚れてしまった友達は、飛び跳ねながらキアラに抱きつく。


「やったじゃん! これで渡せるね。あぶねー。ぎりぎり」


「ありがとうやよいちゃんっ! 手伝わせちゃって悪いね」


「なんの。キアラ、想いが実るといいね」


その言葉に、下を向き色白の顔を真っ赤にする赤髪の少女。

思えば久々に抱き合った気がする二人であった。

友達はとても体温が高く温かい。そして、自分より、膨らみ……が大きいのが

少し悔しかったりもする。


そして当日。2月14日。夕方頃。

キアラはいつもイケメン・リラ奏者が演奏している公園へと出向く。

その日も彼は演奏していた。

夕日が彼の美しい顔を照らし、余計に素敵に見えた。


演奏を聞き終わり、リラ奏者が裏のほうへと下がっていく。

赤髪の少女はソレを渡そうと彼の元へと近づく。


しかし、


彼女が行動するよりも早く、一人の大人の女性が彼に

"羊羹" の袋を渡していた。


「"ちょこれーと"手に入らなかったから、羊羹ね。色似てるし」


「フッ、ちょっと違う気もするけど……ありがとう」


どうやらリラ奏者の女友達だったようだ。

マトモに話したことがないキアラとは、差は歴然であった。


その様子をみていられない彼女……。

"ちょこれーと"を入れた包みをポケットにしまい、

その場から逃げ出してしまった。



後日。



「えーっ、渡せなかったの!?」


「うん。実は先に渡してる女の人がいてさ。

いかにもお似合いって感じで、私が渡す余地なんてなかったよ」


「そっかぁ……」


わかりやすく元気がない赤髪の少女。


突然その手をひっぱり、どこかに連れて行こうとする黒髪の友達。


「わっ!」


と声をあげる少女だったが。


「あんみつ、食べいこうか! おごるからさ。

元気だしなって。あたしがいるでしょ」


「うん……あんみつ好きだから行く」


少女たちの姿が小さくなっていく。

初めての"ばれんたいん"は失恋に終わったけれど、

代わりに、もっと大事なものにも気づけたような気がするキアラであった。





おわりです。

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