被害者の女子生徒による証言③
私は人付き合いがあまり得意ではありません。でも、西野君と距離を縮める為に、話しかける機会が必要でした。なので、登校する時間を5分ほど早める事にしたんです。
西野君がもっと早く来ていたり、もしかしたらもう、ゴミを入れることをしなくなって、朝早くに登校するのを辞めてしまっていたら、会えなかったかもしれません。
でも、西野君はいましたので、結果的には良かったと思います。西野君は早くに登校していましたが、靴箱にゴミは入ってはいませんでした。昨日の今日の事ですから、流石に出来なかったのだと思います。
私は西野君に話しかけようと、挨拶をしてみたり、言葉を掛けてみたりしましたが、彼は何も言いませんでした。もしかしたら、ゴミを入れていたのは私への嫌がらせで、そうしたい程私の事を嫌いなのかもしれない、だから今も無視をしているのかもしれない、そう思いました。だとしたら、私の考えは失敗でした。でも、彼の方を窺うと困った様な顔をしていましたので、きっと何を言うべきなのか分からないのだろうと思ったのです。
だから、私の方からもう一歩踏み込んでみようと、図書室に一緒に行こうと誘ったのです。
西野君は私の誘いに頷いてくれて、ほっとしました。少しは親しくなれたかなと、油断してしまったのです。だから、つい、図書室に向かう途中で、何故ゴミを入れていたのかと聞いてしまったのです。それを言った瞬間、失敗したと思いました。その後はどう取り繕っても、西野君との間に出来てしまった壁を取り除くことはできないと、後悔しました。
でも、西野君がやっと話し始めたのは、私も想像していなかった内容でした。
「好きだ」と言われました。そういった西野くん自身も、驚いていました。好きという事と、靴箱にゴミを入れるということがどう繋がるのか解りませんでした。それに、私が誰からそういった好意を持たれている事を考えていませんでしたので、本当に驚きました。
でも、男子というものは好きな相手を虐めてしまうこともあると聞いたことがありましたので、西野君もそうなのかも知れないと思う事にしたのです。
その時から私は、西野君と交際を始めました。交際と言っても、毎朝図書室で一緒に勉強するだけでしたが…。
毎日の日課であったゴミの処理も必要なくなり、平和だったと思います。でも、次第に別の事柄が気になり始めました。
図書室の司書である、渡辺さんがじっとこちらを見ている事に気が付きました。その視線が段々とねっとりと、まとわりついてくるような物に変わっていくのを感じました。
西野君と一緒に過ごしていると言っても、お互いに自分自身の勉強をしているだけでしたし、煩くしているという事はありませんでした。
だからこそ、渡辺さんがどうして私達の事をじっと見ているのかわかりませんでした。
僕は君の柔らかな右手に恋をする。 佐多こみち @komichi3
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