図書室司書による考察①
白川さんは、積極的に人に話す生徒ではありませんでしたが、こちらから話しかければ穏やかに応えてくれる、そんな生徒でした。
毎朝図書室で自習をする生徒たちの中でも彼女は一番目か、二番目に早かったので何度か言葉を交わす機会がありました。そうしてる内に、彼女からも話しかけてくれるようになったんです。
内容は、天気の話とか何の授業があるから予習が大変だとか、そんな些細なことです。
そんな白川さんの様子が変わったのは、十月に入ってしばらくの頃でした。何時もと違うのは誰の目にも明らかでした。毎朝一人で図書室に現れるはずの彼女が、男子生徒と一緒に来たのですから。
男子生徒の方は図書室ではあまり見た事はありませんでしたが、どうやら同じクラスの西野君という名前だということが分かりました。白川さんがそう呼んでいましたし、今日ある授業の話をしていたのでそうだと分かったのです
もう高校生ですから、男女としてのお付き合いをしている生徒もいます。しかし、白川さんには、そういうイメージがありませんでした。だから、ただの友人として一緒に勉強する為に来ているのだと、その時は思っていました。
二人に直接聞くということはしませんでした。校則で男女交際が禁止されている訳ではありませんし、生徒の人間関係にそこまで踏み込む事も躊躇いがありましたので。
二人はその日から毎朝揃って図書室に現れるようになりました。特定の男女が、毎日、わざわざ朝早くに待ち合わせているのですから、つまりはそういう関係なんだろうと思う様になりました。
私は中学校から大学を卒業するまで女子校で過ごしていましたので、そういった、所謂甘酸っぱい思い出が有りませんので、少し羨ましくもありました。他にも男女交際をしている生徒はいた筈なのに、何故だか白川さんの事だけが羨ましかったのです。
多分、白川さんがあまり人と話すタイプではなく、男女交際とは遠いところにいると思っていたからだと思います。
いい歳をした大人がみっともないでしょう。白川さんが、西野君と図書室に現れるようになってから、気が付くと二人の事見ていました。もし、自分が女子校に通っていなければ、あんな時間を私も持てたのかもしれないなんて考えたりもしました。
そうやって二人の事を見ている内に、ある事に気が付いたんです。
交際をしている割には、二人の間に、稚拙な表現ですが"恋人同士の甘い空気"と言うものが感じられなかったのです。落ち着いた交際、という感じではなく、何処か歪に感じたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます