第89話 仏間

 震災前の実家にいた。

 昼間から暗く、どの部屋に行っても気味が悪い空気が漂っている。

 誰も居ないと思っていたが、仏間に妹が座っていた。

 いや…妹なのだろうか?

 顔が良く見えない。

 妹にしては、太っているように思える。

 妹のような女性は、仏間で正座して、笑っている。

 なにやら気味の悪さを感じて、私は仏間から妹のような女性の手を引いて玄関へ向かう。

 2階から、見知らぬ男が降りてきた。

 私は彼を信頼しているようだ。

 彼が家に居てくれたことで、先ほどまでの不安で落ち着かない気持ちは消えていた。

 3人で家を出ようとすると、廊下の暖簾がフワリと揺れた。

(誰かいる?)

 私は、家の中へ戻る。

 信頼している彼に、反対側から仏間へ回れと指示して、私は暖簾の向こうへ走る。

 赤いジャージの男が逃げていくところだった。

 浅黒い肌のガタイのいい中年。

 ニヤニヤ笑って、窓から外へ出て行く。

 ジャージの男は田んぼへ飛び降りた。

 足を泥に捕られて身動きが取れない。

 私は、男の後頭部めがけて、上から飛び降りて蹴り飛ばす。

 田んぼに男の頭が沈む。

 彼が後ろから私に叫んだ。

殺す気か?」

 私は笑っていた。

 楽しくて、楽しくて、笑っていた。

 男の頭を抑えつけ、窒息するか否かで引き揚げて、また沈める。

 その様子を仏間の窓から妹らしき女性は笑いながら見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る