第90話 解凍
奇妙な部屋にいた。
『H』型の通路、窪みに当たる部分に部屋があり、片方の部屋には数名の見知らぬ人達が暮らしている。
反対側の部屋には、私と、背の低いヒト型のナニカが冷凍保存されている。
私の身体は動かないが、意識はハッキリとしている。
ヒト型のナニカは、鳥と人を混ぜたようなミュータントのように見えた。
小さな窓の向こうに見える部屋、時折、人の会話も聴こえる。
「彼は、あの化け物を閉じ込める為に、犠牲になって冷凍保存されたのだ…」
彼とは私のことだ。
ある日、1人の老人が、扉を開けようとしていることを知った。
ある程度、解凍して運び出せれば…だが、あの化け物も動き出すから…。
そんな会話が聴こえる。
そして、老人と数名の男達が、部屋の解凍を始めた。
徐々に身体に感覚が戻ってくるような、皮膚の表面からジワジワとした温かさを感じる。
私は出られるのだという期待と、この部屋に閉じ込められている数十体の化け物が動き出す不安を同時に抱えていた。
男達がドアを開け、恐る恐る部屋へ入ってくる。
私を抱え、運び出そうとしたのだが…。
私より早く、数体の化け物の解凍が終わってしまっていた。
カラスがゴミを漁る様に、跳ねられた犬の死体を食い散らかす様に、あっという間に男達は化け物に襲われ喰われた。
私の目の前で起こる惨劇、解凍が終わった化け物達が、向かいの部屋へ、なだれ込み、人を食い散らかしていく。
全ての人を食いつくし、後は私の解凍を待つばかり…。
私は、解凍が終わった瞬間に、喰われるのだろう。
私は恨んだ。
余計な事をした老人たちを…。
私が身を挺して守ったものは果して、彼らだったのだろうか?
あるいは、私は化け物の恐怖から自分だけ逃れたくて、自分だけ現実から逃げたのでは?
そんなこと数分後には、どうでもよくなっているはずだけど。
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