第82話 虎とカツラと

 キッチンへ降りると山猫がいた。

『スペインオオヤマネコ』だと思う。

 テーブルのうえで横になって、くつろぐ山猫、その姿は美しく、野生の恐れも感じさせる。

「今日からウチで飼うことになった」と母親が言い、妹が笑っていた。

 そうなのかと思いテーブルにつくと、TVでニュースが流れる。

 司会者の小倉さんが乗ったヘリが墜落したと…。

 近くの山に堕ちたようだ。

 私は焼死体にカツラが燃えた状態で発見されるのだろうなと思った。

 気が付くと私は父親の運転で事故現場へ向かっていた。

 父親は車を、なぜかバックで運転している。

 危ないなと思いながらも口にはしなかった。

 農道を走っていると、野犬の群れがナニカに群がっている。

 ライトで照らすと大きな2頭のトラを襲っている。

 トラはその腹の下に子供を守りながら野犬を威嚇している。


 私は車を降りて野犬に向かって吠えた、獣のように。

 野犬は私の横をすり抜け去って行く。

 残されたトラも畑に向かって歩いて行く。

 助手席に戻ると、なぜか2頭の子供のトラとヒョウの子供がじゃれている。

 父親は持って帰ると言うのだが、私は助手席からトラとヒョウを抱いて降ろした。


 後ろの山ではヘリが堕ちた場所が燃え、畑にはトラがくつろぐ。


 きっと焼死体は晒されて笑われているのだろうと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る