第63話 ツーリング

 バイクに乗っていた、ヘルメットは被っていない。

 いわゆる旧車だと思う。

 風を切るような失踪感が心地いい。


 海岸にバイクを停めて、地図を開く。

 白紙の地図。


 解っていた。

 私はバイクに乗れない…免許も持っていない。

 お金も無い。


 白紙の地図は、私の現実。

 現実には行き着く場所が無いのだ。


 急に不安感に襲われた。

 バイクに跨るのだが、エンジンの掛け方が解らない。

 先ほどまでの失踪感が嘘のようだ。


 手足のように操っていたバイクが、得体のしれない存在に思える。

 泣きそうになりながら私はバイクのエンジンをかけて逃げ出そうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る