第61話 映画館

 古い映画を観ていた。

 白黒で無音声、映画館自体とても古いようだ。

 誰も居ないような映画館、私は最後列で立ち見している。


 SF,コメディ,ファンタジー…色んな映像が流れては消える。

 ストーリーなんて無いように思えた。

 しかし私は真剣に観ている。

 なぜだろう、とても悲しい気持ちになっていた。

 涙を堪えながら観ているのだ。


 あまりの悲しみに、ついに耐えきれず私は、涙を流して映像を観ている。


 なにがそんなに悲しいのか、少なくても映像からは読み取れない。


 映像が途切れた…上映が終わろうとしてる。

 私は急に不安な気持ちに駆られる。

 暗い館内に明かりが灯されることに不安を感じている。


 暗くてよく視えないが、席には何人か座っているようだ。

 彼らが立ちあがって帰って行くことに怯えている。


 不安…押しつぶされそうで胸が苦しい。


 どうか明るくならないで…早く次の映画を流して、じゃないと皆、帰ってしまう…。


 どうか…どうか…私は願うことしかできない。


 この暗闇だけが、私の居場所のような気がした。

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