第13夜 解剖室

 白衣を着ていた。

 私には前歯2本を残して、歯が無く、鏡を見ては、そのことをとても気にしていた。

 手鏡に映る自分の口内は気味が悪く、歯茎に空いた穴は決して他人に見られてはならないと感じていた。

 薄暗い部屋の奥には死体袋に入れられた何体かの遺体がある。

 私は、その遺体を解剖しなければいけないようだ。

 部屋には、私以外に人はおらず、解剖も1人でこなしているいつもの作業のように感じた。

 袋のファスナーを下げると裸の遺体が自分で寝返りをうつようにゴロッと机の上に転がり落ちる。

 重さは感じない。

 慣れた手つきで遺体をさばいていく。

 何をしているのか?なんのためにおこなっているのか?まるで分らない。

 緑色の遺体袋を放り投げるように部屋の隅にまとめ、何体かの遺体を処理していると、急にザワッと寒気が走る。

 後ろを振り向くと、足元に小さな緑の袋が転がっている。


 私は、その袋の中身を知っている。

 生首が入っているのだ。

 それは決して開けてはいけない袋。

 私は小さな袋を足で部屋の隅に蹴飛ばし、机の遺体袋を開けようとする。

 ファスナーを下げられない。

 いや、私の手が下げたがらないのだ。

 その袋の遺体は、生首の胴体だと私は知っている。


 足元に目をやると、小さな緑の袋が転がっている。

(開けなければならないのだろうか…)


 私は知っている。

 生首の顔を知っている。

 開けてはいけないことを知っている。


 袋を持ち上げて、机の上に置く。

 ファスナーを下げると、中年の男性の生首がゴロンと転がり落ちる。

(やっぱり…オマエか…)


 絶望で目が覚めた。

 男の顔は覚えていない。

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