4話「大学デビューはじめました」

安倍香玲那の隠し事

 ーーやってしまった。


 小柄な体を更に小さくして、安倍香玲那は資料室へ逃げ込んだ。


 突拍子もなく始まった憑きサーの罵倒イベント。興味本位で覗いて見れば、彼らは眼鏡を掛けた小さな女の子を探しているという。


 そういえば自分も眼鏡で小さいや、なんて呑気なことを考えていたら、ある単語が耳に届く。


「ちょっと神様呼べる系女子みたいなんだ」


 神様という言葉が嫌に頭の中に響き渡る。神様は香玲那と少し……いや大きく関わるものだからだ。


「もしかして、私を探している? なんで……」


 彼女は某有名陰陽師を祖先に持つ少女だった。香玲那自身、陰陽師の修業を幼い頃より受けている。しかしそのことは大学では隠して生活していた。打ち明けるつもりもない。


 オカルトサークルというが、本当に幽霊が見える人はそうそういない。スリルが欲しくて活動しているだけだろう。本当に幽霊が見えて、しかも陰陽師なんて名乗ったら気味悪がって遠ざかるに決まっているーーと、香玲那は思っていた。


「この前、神社の近くで本を読んでたって話なんだ。いや、ちょっと困ったことになっててさ、神様に取り憑かれたって相談しにきたやつがいるんだよ」


 女の子たちに囲まれながら、やたら顔が綺麗な青年が話している。話を聞いていた女の子たちは「なにそれー」だの「やばーい」だのと間延びした返答を返しているが、香玲那の耳にはもう届いていなかった。


「嘘だ……。だって私、神様なんてまだ呼べないもん」


 心臓がドクドクとうるさい。


 急いでその場を離れた香玲那は、逃げ込むように資料室へ転がり込んだ。もしも話が本当なら一大事だ。


 彼女は本棚から古びた本を引っ張り出す。公園で読んでいた、信仰の歴史が記された本だ。


「あった。このページだったはず」


 広げられたページには、ある地方において行われている神を降ろす祭と、その際に村人が唱える呪文が紹介されていた。


 何の神かさえわかれば対応のしようもある。だがーー


「書いてない……」


 漠然と村の神としか書いておらず、村の名前も記載されていなかった。わかったこといえば、村の所在が東日本の山奥ということぐらいだ。あまりにも範囲が広過ぎる。


「どうしよう……」


 未熟な自分では神を帰すことなど出来ない。何の神かもわからないのだから余計に無茶だ。


 香玲那はその場にしゃがみ込むと、茫然とした目で沈む夕日を眺めていたのだった。

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逢間陽瑠には運がない 清水カズシゲ @zuka_sousa9

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