明日からが、本番

 後日、全ての授業が終わった夜の七時。憑きサーメンバーと填武を含む七名は、第四研究所に集合した。


「僕が最後かな?」


「遅かったですね。今日は、五限に授業をとってなかったと記憶してますが……」


「ごめんごめん。なんか、罵って欲しいって頼まれちゃってさ」


 昨日の罵倒イベントで、何かに目覚めた学生たちが陽瑠のもとにやってきたらしい。律儀に対応していたら、すっかり遅くなってしまったそうだ。これもある意味不幸と言えよう。マゾヒスト製造機というあだ名も、近いうちに作られるかもしれない。


「あと、ちょっと独自調査をしてたんだ。遅くなったのはむしろこっちが原因」


「独自調査?」


「うん。昨日の聞き込み調査でね、ちょっとそれっぽい人物がわかったんだ」


 眼鏡を掛けた小さな女の子を探していると募ったところ、近所の中学生および小学生、俺の妹が眼鏡を掛けているなど、数多くの情報が寄せられた。


 陽瑠はその中でいくつかの人物をリストアップし、更に絞り込みをしてある一人の人物に目標を絞っていた。


「一学年、人文学部の安倍香玲那(あべかれな)。彼女が怪しいと思うよ」


 情報をくれたのは新入生の女子二人だった。食堂でいつも一人でご飯を食べている女の子がいる。その子は地味で目立たないけど、ある意味目立つから気になってしょうがないというもの。


 名前はわからない。ただ、今時仮装大会くらいでしかお目に掛かれない瓶底眼鏡と、中学生……下手したら小学生と見間違える童顔低身長らしい。眼鏡を掛けた小さな女の子という特徴が合致しているので、もしかしてと思い知らせてくれたようだ。


「それで、今日僕がちょこっと調べたら学年と学部と名前がわかったってわけ」


「なんでそれだけで怪しいと言える?」


 填武が訝しげに陽瑠を見る。すると彼は待ってましたとばかりに話し始めた。


「名字だよ。安倍ってさ、有名な陰陽師の名前じゃない」


「それだけか?」


「え、それだけだよ」


 意気揚々と話し始めたので、もっと確定的な何かを掴んだと思ったが、期待して損をしたーーと、填武はがっくり肩を落とす。


「あはは、期待させてごめんね。あと、彼女以外にも何人かリストアップしているから、手分けして色々聞いてみようよ」


 そう言って陽瑠が人数分のプリントアウトを配る。そこには先程の安倍香玲那をはじめ、数名の名前と個人情報が記載されていた。


 各々が誰に聞き込みをするか話し合う。怪しいと踏んでいる安倍香玲那に関しては、陽瑠と填武が話を聞きに行く運びとなった。


「見つかるといいね」


 陽瑠が填武の肩を叩く。


 正直、魔王もとい陽瑠と二人で行動するのはちょっと気が引けたが、行動力と神経の図太さはピカイチなのである意味とても心強い。


 ガラにもなく填武はうっすらと微笑む。笑ったのなんていつぶりだろうか。


 ーー明日が楽しみだな。


 憑きサーに出入りして三日目。僅か三日だが、どこか楽しんでいる自分に気がついて、填武はフッと鼻で笑った。

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