第52話 愛の劇場・もう離さない
アンソニーと私は日本での時間を満喫していた。
アンソニーと二人、渋谷の交差点を歩き、原宿でクレープも食べた。銀座でショッピングをして浅草の雷門へ行き浅草寺のお参りもした。
そして、翌週には婚約の報告をするため、北海道の両親の元へ急遽アンソニーと一緒に訪ねることにもした。
千歳空港に降り立つと、空港内には「北海道ラーメン道場」がある。
「たくさんのラーメン店があるんだね」
「そうだね。北海道ラーメンと言っても地域ごとに特徴があるんだよ。私は、味噌ラーメンの太固麺が好きなの。カニやエビなどのシーフード入りのラーメンもあるよ」
アンソニーと北海道のご当地ラーメンをお腹いっぱい食べた。
ラーメンで空腹を満たすと、いよいよ両親と弟に挨拶するために実家へと向かう。アンソニーは、とても緊張しているようだった。
英語が話せない両親も、ガチガチに緊張している。
「カレンさんと結婚したいと思っています」
「アンソニー、こんな娘ですが……どうぞよろしくお願いします」
緊張の挨拶を終えると笑顔が戻り、家族で宴会を開いた。その晩は、夜更けまでみんなで飲み明かした。
◇ ◆ ◇
両親に挨拶をすませ、東京に戻った私たちは、何気ない日常を送りながら幸せを味わっていた。
「カレン、今日は僕の母さんが主演している新しい映画が公開される日だから、映画を観に行こう」
「えっそうなの !! すごい楽しみだね」
映画館では、『あなたを愛してる。愛する人たちへ』が上映されていた。女優・サマンサが、愛する息子たちへ語りかけているかのような内容だった。
「アンソニーのお母さん、素敵だね。きっとこの映画はアンソニーとトリスタンに伝えたかったメッセージなんだよ」
映画が終わり、余韻にふけりながらアンソニーへ話しかける。
スクリーンには、新作の予告が流れ始めていた。
『ジャン=クラウドが主演・監督・最新作! 「幸せになれよ!! 」ジャン=クラウドが、初の恋愛映画に挑戦する、君に伝えたい愛の詩。愛する人の幸せを祈り、切ない思いで恋を諦めるが、新しい恋との出会いで幸せになるストーリー!! 来年春公開予定……乞うご期待!!』
「カレン、ジャンの最新作は、君へのメッセージのようだね」
「ジャンは、私の命の恩人で大切なひとだよ」
「そうだね。でもカレン。……もう、君を誰にも渡さない。君は僕だけのものだよ」
「アンソニー。……これからも『世界の男図鑑』の取材は続くんだよ。まだまだ、沢山のイケメンも登場しそうだし……」
「まったく、これからもカレンには、手を焼きそうだな」
上映が終わり、誰一人残っていない真っ暗な映画館の席
右手で顎をクイっと持ち上げられると、アンソニーの顔が近づき優しいくちづけが静かに重ねられる。甘やかな余韻の中、触れるだけのくちづけで……切ないほど私のすべてが満たされていく。
素敵な恋を経験すると……女はちょっぴり小悪魔になるのかもしれない。
こうなったら世界中の男と恋をする!トラベルライター物語 月星 妙 @AmyHop
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