第1話 『社会人Aの場合』
電車に揺られて30分。
職場に着いてから約9時間。
また揺られては30分。
家について、愛する妻と生まれて間もない息子と過ごす時間は長くはない。
友人とも遊ばなくなり、27歳にもなって人生とは、そう考えるようになってしまった。
小さい頃からつまらない時はなにかこう、スリルのあることが起きないかと昼休みに考えていたものだ。
例えば、今乗ってる電車が緊急停車とか……、
《キィーッ、キキィーッ‼︎‼︎》
頭に鈍い痛みと、
つり革につかまっていた人達がテトリスになって飛んでいく。
まさかほんとにそうなるとは。
『ただいま、緊急停車申し訳ございません。原因を解明の上、説明をしに伺います。』
怒れる電車内の声や、家族に無事を伝える電話などで、やけに騒がしくなる。
「ねぇ。」
ふとかけられた幼い声に身をよじらせて振り向く。
「おにーさん。すこし楽しんでるでしょ?」
おにーさんでもない歳だし、少しどころか かなりたのしんでいたじぶんがいたのだが、
「そんなわけないだろ、みんな大変そうだしなにより、早く帰りたいんだ。」
若い子に話しかけられ男のサガか、
格好をつけてしまう。
「うそだよ、さっきから
人生つまんね〜って顔してたもん。」
なぜわかるんだ。そんなに顔に出していたつもりはないのに。
「君は心でも読めるのか?」
「どうだろうね、早くお家に帰りたいおにーさん。」
少し小馬鹿にされているような感じがした。
はぁ、タクシーでも呼んで帰ろう。
「君もご家族の方に来てもらって早く帰るんだよ。」
「タクシー呼ぶんでしょ?
私も乗せてってよ。もちろん払うもんは払うよ」
俺は表情が豊かなのかもしれない。
図々しいとは思ったが、ほっとくわけにもいかず、
「…わかった。来るまでここで待ってよう。」
うん! と、元気に返事を返されつい、拍子抜けしてしまった。
それから連絡してタクシーが来るまでの間、特に会話もなく20分が経った。
「ねぇ、おにいさん。タクシーおそいね」
「そうだね、混んでるのかな?」
「私が 面白い話 してあげようか?」
「どんな話?」
「明日 世界が終わる日 のお話。」
彼女はそっと目を閉じて、
体験談かのように話し始めた。
「それは唐突にやってくるの。
テレビの電源を落とす時みたいに、フッとね。それまではみんな楽しそうに家族や友達と過ごしてて、瞬きをするとね、みんないなくて…」
そこまで言って彼女は話すのをやめた。切なそうに背中を曲げた。
「なんかの映画の話?」
「ん、あー、そう!映画の話!」
そしてまた笑顔を振りまいた。自分の内にある不安を振り払うかのように。
電車の窓ガラスに迎車とひかるタクシーが映る。
普段目にしない真っ赤な車体は、少しだけ不安感をくすぐった。
僕ら二人はタクシーに乗り込み目的地を伝え、座席に腰を落ち着かせるとため息をついた。
そこでまた、他愛もない会話を運転手と交え、自宅の前で止めてもらった。
「あい、1400円ですねー。」
「あ、3000円でいいですか?
彼女の分までお願いします。」
ちゃんとしっかり男を見せる俺。
「え、そんないいのに…
ありがとね!優しいおにいさん。」
じゃあな!と手を振り、彼女を見送った。
家に帰るなりテレビをつけると、
都市伝説の特集番組がやっていて、
【20xx年、世界が滅亡する!】
なんていう見出しが隅っこに光っていた。
なんと馬鹿馬鹿しい。
が、
先ほどの彼女にもそんな話をされたため少し気になってしまった。
少し見た後に、遠い未来の話だと思い、テレビを消した。
『信じるか信じないかは、あなたし…』プツン。
あした世界が終わる日の今日 夜述 すみ @wjm_0807
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