第24話:検索しても出てこない虫

 皆さんこんにちは、ケイです。お久しぶりです。

 前回の更新からもう3か月も経ってしまっている……。いやぁ、3月末から仕事が忙しくて。まず3月末から年度をまたいで2週間海外に行っていたんだ。もちろん虫関係でね。それからも調査、プレゼン、計画、調査、報告書作成、同定依頼など、仕事が立て込んじゃって。気がつけばこんなに時間を開けてしまっていた。申し訳ない。


 気を取り直して、今回のテーマは「検索しても出てこない虫」について。検索っていうのは同定するときに用いる検索表keyの方ではなくて、インターネットでの検索の方だ。

 最近のインターネットは本当に何でも載っていて、標本写真や生態写真まで出てくることがある。とはいえ、それも昆虫全体ではごくごく一部でしかなく、名前(和名)で検索してもほとんど何もヒットしない虫の方が多い。今回はそういった、ネットで和名を検索したときにほとんど情報が出てこない虫について話していこうと思う。


 まず、検索しても出てこない虫=珍しい虫というのは少し違う。むしろ場合、検索すれば出てくる可能性の方が多い。真に珍しい虫の場合は、そもそも情報がほとんどないからね。

 例えばタガメは『珍しい虫』だけど、ネットで検索すれば画像はもちろん生態や細かな生息地まで出てくる。タガメの場合、大きくて目立つこと、ファンが多いこと、そして何より昔は人のすぐ近くに普通にいたことによって、検索すれば様々な情報が出てくるのだと思う。


 この中でも、やっぱり『ファンが多いこと』が一番重要なんじゃないかなと個人的には思う。例えばチョウの仲間はほとんど全部といっていいほどネット検索すれば画像が出てくるけど、これはチョウ好きがプロアマ問わず多いからだと思うんだ。もちろんそれは、大きくて綺麗で目立つからというのもあるけれど。

 一方でファンが少ない虫はあまり情報がない場合が多い。そういった虫はたいてい小さくて目立たない虫の場合が多くて、写真を撮るのが難しかったり、同定するのが難しかったりと色々理由はあるのだろうけれど、結局はファンの多さに左右されると思う。例えば、最近脚光を浴びているヒメドロムシという虫は3mm程度の小さな甲虫だけど、意外と色々画像が上がっている。これもヒメドロファンが一定数いるからだと思うんだ。


 さて、じゃあ本題に入ろう。これほどまでにネットが発達した現代で、いまだにほとんど情報が出てこない虫、それはハチだ。


「というわけで今回はこの件に関してフラストレーションがたまってそうなスガルさんをお呼びしました」

「久しいわね、スガル」

「お招きありがとう二人とも。だが、別にフラストレーションはたまっていないぞ」

「あれ、そうなの?」

「ああ、ネットでわからないものを私は知っているという特別感というか優越感とかあるからな」

「一般にまだ知られていないものの方が好きっていう気持ち、わかる」

「……それってひがみじゃないのかしら」


 では、ここからはケイにかわり私が話していこう。ハチがとにかく知られていないという話は以前にもあったと思うが、その中でも比較的ファンが多く、まとまった図鑑も出ている有剣類(刺針をもつハチ。スズメバチの仲間など)であってもろくに出てこないものが多い。

 というかあれだ、多いというかほとんど出てこないに等しい。あと同定が間違っている場合が多々ある。というわけでハチをネット検索して出てきた情報はあまり信用できないのである。


 いくつか例を挙げてみよう。先日私が採集したハチでツヤアナバチというものがいる。これは狩蜂の仲間で、大きさは5mm程度で小さいが、同定は簡単な方だ。これをグーグル先生に問うてみると、まず「次の検索結果を表示しています: ツヤハナバチ」と言われる。ツヤハナバチはハナバチの仲間で、確かに名前は似ているけれど全然違うハチだ。

 仕方がないので画像検索欄でもう一度ツヤアナバチを検索する。すると5枚ほどツヤアナバチの写真が出てくる。はじめの5枚以降は別のハチだ。それもハクサンツヤアナバチのみのようである。

 すべての検索結果はなんと2ページしかないうえ、ほとんどが目録かレッドデータである。ほとんど何もわからない。ちなみに属名のAlyssonで検索すると、外国のチャンネーが山ほど出てくる。


「まあアリソンなんてよくある人名だし仕方ないな」

「種小名入れたらマシになるけど、画像はまったく出てこないわね」

「僕初めて聞いたよこのハチ」

「まあ見つけ採りするには少し難しい虫ではあるからな。生息地もそんなに広くないようだし。いる場所でパントラップを仕掛けたら採りやすいらしいが」


 実際に検索してくれた人はわかるだろうが、このハチはけれど黄色の斑紋があるなど特徴のあるハチだ。それでもこの程度しか情報が出てこない。


 しかし、画像が出てくるだけツヤアナバチはマシなのである。エナシエンモンバチというハチは本人の画像どころか他のハチすら紛れてこない。ハチの図鑑が二つ出てくるだけである。学名で調べると少しは画像が出てくるが、日本のものはないな。


「このハチに関しては採集記録が極端に少ないから仕方がない」

「本当にほとんどなにも出てこないのね。目録くらいしか引っかからない」

「これも初めて聞いた」

「ま、私は採ったけどな!!」

「またそうやってすぐイキる……」


 これらのハチでも虫屋の中ですらマニアックなほうだが、さらに小型の1mm位しかないハチとかになってくるといよいよもって何も出てこない。また、ハチは分類が安定していないものも多く、そういった意味でも出てこないものが多い。


「まあでもあれだな、こうして調べてみると案外画像が出てくるやつもあるんだな」

「ほとんど一つ二つのサイトだけだったけどね。でもこれだけ出てこないとなると、アマチュアの人にとっては厳しいよね」

「そのアマチュアがほとんどいないからこうなっているんだけどな……」


 こういうネットの情報や画像はたいていアマチュアの虫屋が公開していることが多いのだが、ハチに関してはこのアマチュアというのがほとんどいない。よって電子情報の発達したこの現代社会のネット上にすらほとんど情報の無い虫というものが、いまだ数多眠っているのだ。


「今回は私がハチの話をしたが、たぶん次回あたりしびれを切らしたマユが突撃してくると思うぞ」

「そう思ってもう誘ってあるわ」

「さすがスミレ、いつの間に」


 というわけで、次回は検索しても出てこない小さなガ、ミクロレピの話です。

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