幾人もの登場人物の視点で描き出されるのは、タシャと呼ばれる少女がサーカスの下働きとして、餓死寸前の身の上で生きなければならなくなったその事情に至る出来事。
そして、彼女がなんなのかと、一人の吸血鬼が彼女に手を伸ばすまでの経緯です。
描き出される物語のイメージはおとぎ話のようながら、ひどくシビアでもあり。美しいばかりではなく陰惨で無慈悲な現実と、人ならぬものが息づく古い伝承のような世界が同じだけたっぷりと描き出されます。
綴られる顛末は少しだけ突き放すような静かさで淡々とした手触りではあるものの、目を覆いたくなるほど虐げられたタシャが初めて人として扱われたときの心の動きと、抑えた筆致ながら描き出される心の揺れは鮮やかで、読めばなんとかして幸せになってほしいと願ってしまうことでしょう。
また、人ならぬものの心のかたちや生態の描き出し方が見事で、別の生き物の道理に、理解しきることは出来ないけれどそういうものなのだろうと納得させられる説得力があります。
幻想的な余韻をたっぷり味わえる作品です。
(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)