第5話 天道是か非か
「天道是か非か」
青年は太史公司馬遷の言葉を口にする。
天に正しい道理などあるのか。
古の歴史家は、天の道理に見放されたかのような自らの人生をこのような言葉で綴った。
「太史公は、天が見えなくなって、人を見ようとしたのだと思うのです。
…だから私もそうしてみようかと」
よくわからない。
天が見えない、まではわかる。
太史公は友人に連座して罪を得た人だ。
罪なくして罰を受けたこの男同様、天道の是非がわからなくなった。
だが、人を見る?それはどういうことだ?
そんな絶望を味わったことのない俺にはわからないことなのか?
わからないことが悔しくて、俺もわからないことを言ってみた。
「20世紀を見に行こう」
立ち上がって外套を羽織る。
「それは、見えるものなのですか」
生真面目に返す青年に俺はため息交じりに言う。
「それを言ったらお前の言う”人”だって見えるのかよ」
俺たちの間に一瞬柔らかな風が吹き抜けた。
…笑った?
見間違いだろうか。
だが…その笑顔をもう一度見たい。
そんなことで笑えるのなら、この上海にいれば、明日も笑えるのではないか。
いや、上海だけじゃない。
どこにいたって、どんな時代だって、ふと優しい気持ちになれる瞬間というのがある。
そうして、自然に笑みが浮かぶ。
そのためには、生きていることが条件だ。
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