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 大学時代はKという城下町に住んでいた。あの頃はまだ不便だったから、故郷から電車を乗り継いでだいたい八時間かかった。両親や親戚や近所の規律が届くはずもない、遠く離れた街だった。そうして私の故郷より大きな街だった。私は都市の空気にあり余る自由を得て、そうして壊れていった。



 高校時代の同級生が観光に来る話は急に決まった。Kは少し洒落た城下町だったから、よその地方の、とくに学生の旅行先としては人気があるらしかった。

「前から行きたかった」

 はるかは電話口で昂奮していた。

 遥と私は高校の部活動が同じだった。あまり仲の良いほうでもなかったが、彼女はどこからか、私がKに住んでいることを聞きつけて連絡してきた。勝手だが嫌な気はしなかった。大学の勉強はさっぱり頭に入らず、何事も歩くたびに失敗を繰り返していた当時の私は、いつも承認に飢えていた。

「案内すればいいのか」私はそれでも不機嫌を装って彼女に訊いた。

「いや、泊めて」

 そのときの彼女は意外にも横柄であった。

「お金ないもん」遥は言った。

 私にだって、ない。


五月の連休を過ぎた頃だった。海から吹く湿気た風は肌にまとわりついて振り払うこともできず、ようやく散った桜の葉が泡だつ木陰に沿って、私は駅まで彼女を迎えに行った。遥はすぐ改札から出てきた。


「お久しぶりです」

「久しぶり」田舎教師のような角ばったスーツケースを引いて、青いワンピースの遥が手を振った。

「少し痩せた?」

「苦労してるんだよ」私は苦笑した。





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ハルシュカの幻 坪井靖洋 @slightlysweet

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