第3話 未知との遭遇

 結果から言うと、メグの作戦は大成功だった。

 輿に乗ってしずしずとやってきた姫様を罠にはめたつもりの山賊達は、ロックが率いる伏兵の登場に算を乱しどちらを攻撃するか戸惑った。

 その隙をメグは見逃さない。すかさず飛び出して輿の後ろから連れてきていた白馬に跨がり、アレンシア家の旗を振って味方の兵士を鼓舞した。

 「計画通りだ!賊どもを一網打尽だ!私に続け!」

 既に深紅の鎧で武装していたメグが輝かんばかりの金髪ツインテールと旗をなびかせながら兵を率い、地響きを鳴らして突進してくる姿。捕らえられた山賊はこう供述した。

「あんなん勝てるわけがないやん…。」

尋問に立ち会っていたロックは苦笑する。

「だろ?俺もそう思う。ご苦労さんだったな。」


 敵と部下が妙なところで意見の一致を見た頃、メグは野営の天幕内で山賊による被害の報告を受けていた。

 「神殿の長老様の指図で村人たちは既に近隣の砦に避難済み、それも全員の無事を確認致しました。」

 「奴らは住み着くつもりだったらしく、焼かれたり壊されたりした家屋はありませんでした。被害はいくらかの食料や水程度です。」

 「よし、村人たちには私が山賊を討伐したゆえ安心するよう伝えよ。引き続き国境を固めることで安心してもらう他ないな。

 必要な水・食料はアレンシア伯家で出すように手配しよう。各村ごとに被害額を算定しておけ。

 各自この布告を持っていくがいい。」

「ははっ!」「仰せの通りに!」

 メグの名義で出された命令書を受け取って天幕から退出する兵士を見送り、メグは折りたたみ椅子に腰掛けながらひとりごちる。

 「人的被害がなくて本当によかった…。」

 休む間もなく、次の報告がやってくる。

 「失礼します…。ロックでございます…。」

 「よし入れ。」

 捕虜の尋問を終えたロックは何か言いにくそうに立っている。

 「どうした兵士長殿。報告があって来たのだろう?」

 メグが茶化すとロックは言いにくそうに告げた。

 「捕虜の自白により、山賊の被害者?が発見されました…。」

 「なんだと!怪我か、それとも…。」

 ロックは両手を突き出してブンブン振る。

 「いえ!見たところ怪我もないようで無事?なんじゃないかなと…。」

 「しかしさっきからいちいち奥歯に挟まったような言い方だな。被害者は男か女か、大人か子供か?」

 「それがその…我々もよくわからないので連れて参りました。ご覧になりますか?」

 普段の即断即決なロックらしくもない様子にメグが頭をひねりながら天幕を出ると、そこに被害者はいた。


 黒々とした毛皮、見るからに強靭そうに盛り上がった全身の筋肉、彫りの深い面立ち、深い知性を湛える澄んだ瞳。

 ゴリラである。

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メグ戦記 柚木山不動 @funnunofudou

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