第2話 神殿にて
メグが宿営地として指定したウィオラウム伯領に程近い小さな神殿に到着したのは、その日の夕方であった。
そのあとから続々と駆け付けた兵500に十分な休息を与えるようロックに指示したメグは、即席であつらえられた兵たちのテントが並んだ神殿の中庭を抜けて最奥部に向かう。
一際大きな両開きの扉の前にいた戦乙女装束の門番はその前に進み出た。
門番は兜を取り首を垂れた。
「お久しゅうございます姫様。息災であらせられましたか。」
「お前と私はかつてこの神殿で共に学んだ仲ではないか。そのようにかしこまらずともよい。長老殿はお元気か?」
「はい、それはもう!齢80を超えてますますパワフルになっておりますよ。先に拝殿に入られて姫様をお待ちです。」
門番が大扉を開くと拝殿の正面に祭壇が据えられている。その前で杖をついた白髪の老婆が一人、メグを待ちうけていた。お付きの女官は誰もいない。人払いしたのだろうか。
「久しいな、おてんばメグ。」
「突然来訪する非礼をお許しください、猊下。不肖の弟子メグ・ド・アレンシアにございます。」
「挨拶だけは一人前にできるようになったようだね。おいで。」
長老の手招きに応じ、メグは祭壇の目の前まで進んで口を開く。
「手短に用件のみご無礼つかまつります。此度の山賊騒ぎについて…。」
「ああ、ウィオラウムの手の者じゃろ。こちらでも既に草を放って、裏は取ってある。」
「やはりお気づきでしたか。」
長老はメグをじろりと睨んで鼻を鳴らす。
「フン、誰がお前さんに兵法軍学の類を教え込んだか忘れちまったのかい?このおいぼれより先に耄碌するんじゃぁないよ。」
しわしわの手で祭壇に神殿周辺の地図を広げた長老は杖を使ってテキパキと状況を説明する。
「報告によれば相手の兵の配置は以上の通りだそうだ。やれるな?」
「猊下が既にここまでお膳立てしてくださったのです。必ずや。」
メグは地図を受け取り、一礼して拝殿を退出した。
扉を出ると門番は心配顔で待っていた。
「いかがでしたか姫様?」
「長老殿は相変わらずだな。あいさつ代わりに憎まれ口を叩けるうちは、殺しても死にそうにないさ。」
ホッとした表情の門番に討伐の後また立ち寄ることを約束して、メグはロックのテントに向かった。
地図を見せられたロックは唸った。地形の起伏や伏兵の配置に最適な箇所など、詳細に調べられていたからだ。
「姫様、あの長老いったい何者ですか。只の尼御前ではありませんな。ひとかどの軍師並み…いや、それ以上の知識がないと、このような地図を作るのも容易ではないはず。」
「私の先生さ。おじいさまとは若い頃の竜退治以来の腐れ縁だとも聞いている。
それより差しあたっては明日の兵の配置の方が大事だ。長老の調査によれば、相手は伏兵含めて200。
私は兵100でのこのこと山賊退治にやってきた世間知らずのお姫様のフリをするから、ロックは兵300でさらに外側から挟み撃ちにする。その際、ここの場所だけ手薄にしておけ。ウィオラウムのおっさんに負け戦を報告する奴らくらいは残してやらんとな。
残りの兵100はお前の部下の中から誰か適当なものに任せて奴らの後方を撹乱させよ。」
「御意。」
「では今夜はこれで仕舞いだ。見張りを厳にするよう指示したら、ロックも休むがよい。」
「はっ!」
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