メグ戦記
柚木山不動
第1話 アレンシア伯の孫娘
街道を金髪ツインテールの美少女が白馬に乗って猛スピードで駆けて行く。真紅の胸当てを輝かせ槍を手挟んだその姿は、武装した戦乙女の如きものであった。
「ハイヤー!」
「お待ちください姫様!」
「遅いぞロック!置いて行かれたくなければついてこい!」
アレンシア伯の唯一の孫娘メグ・ド・アレンシアは謁見の間で、盗賊が辺境の村を襲ったという報告を受けた。
それは当主のアレンシア伯が国王陛下の即位式に参列するため領地を離れている時だった。国境警備兵の報告によると、盗賊は隣のウィオラウム伯領から国境を越えてきたとのこと。
「おおかた、盗賊に見せかけたウィオラウムのオッサンの嫌がらせだろう。乱をすぐさま平定できなければ、国王陛下にあることないこと吹き込んでアレンシア伯の統治能力に疑問ありと領地を削る腹積りが見え見えだ。おじいさまがいない時を狙ってでないとこういうことできない、つまらん男さ。」
「とは言え、放っておくわけにはいきませんな。すぐに兵たちに緊急招集をかけましょう。」
留守部隊の兵士長ロック・マヌエルがそう言うと、メグは侍女に自分の鎧と槍と弓矢を用意するように指示しながら言った。
「今から集めて間に合うか?今城にいるのは何人だ?」
「せいぜい1000人といったところですな。」
「盗賊は50人程と言っていたな。伏兵がいるとしても然程多くはあるまい。兵500を率いて私が出る。」
ロックは顔色が変わる。
「姫様がご出座するほどの事ではございません。かねてより懇意のハイランド候にも既に助力を頼んでおりますので、どうか城内で報告をお待ちください。」
「そうは言うがなロック、父上が身罷られて以来ウィオラウム伯はこちらを舐めきっているんだ。跡継ぎがまだ若いうちにつぶしておきたいとでも思っているんだろう。こっちが17歳美少女だからと言ってつぶされるほどヤワじゃないところを見せつけて、しばらくおとなしくなっていただこう。」
「自分で美少女とか言わなきゃ良いんですが…」
メグは既に侍女が用意した真紅の胸当てと肩当を身に付けている。弓入れをベルトに付け矢筒を背負い真紅の籠手の具合を確かめると、槍にアレンシア伯の紋章の描かれた旗を取り付けて厩舎に向かう。
厩舎では馬飼いのフドルヌスがメグの愛馬にブラッシングしているところだった。
「おや、姫様。お出かけで?」
「ちょっとな。具合はどうだ?」
「へい、準備万端でさぁ。」
日に焼けた顔がニッカリと笑う。
ロックが常駐兵のうち500人を選んで追いかけてくるよう部下に指示して厩舎に走って来たのと、メグの乗った白馬が駆けだしたのがほぼ同時であった。
「行ってらっしゃいませー、ひめさまー。」
のんきに麦わら帽子を振ってるのはフドルヌスだけだ。ロックは慌てて自分の馬に駆け寄る。
「ハイヤー!」
「お待ちください姫様!」
「遅いぞロック!置いて行かれたくなければついてこい!」
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