第10話 亡き妹へ捧ぐ

ハァァァァ……。


黒いローブの男は、両手を合掌。精神を集中させながら

小声で呪文を唱え始めた。


少女はその様子を見て、驚いた様子で言う。


「あの長ったらしい呪文はまさか!」


すると、みるみるうちに黒いローブの男の衣服が破れ、全裸になってしまった。

そして彼の姿は徐々に爬虫類系の姿へと変わり、そして巨大化してゆく。


「やはり、あれはタマシイガハイッタリュウという伝説の魔導……。

サクラも書物では読んだことがありますが、実際に使う者がいるなんて」


「自らの細胞を変化させ、ドラコン(亜人種。ドラゴンと人間中間に値する種族)へと

変体させる術です。パワー、スピード、肉体強度共に人間の比ではありません」


身長180cmの美しい男を完全に見下すほど肥大したその体、筋肉。

猫背で煙の息を吐きながら、元黒いローブの男……爬虫類の男は

彼に襲いかかった。


「シネ、ウツクシイオトコ!!」


変化した口の構造の問題なのか、片言のような発音で男は叫び、

うろこ状の拳を美しい男の左肩に叩きつける。


「ぐはっ」


すさまじい突きのスピードと重量に耐え切れず、彼の体は地面と水平に

吹っ飛び、廃墟の壁へとめり込んだ。


立膝を付きながら、美しい男は言った。


「なんというパワーとスピード……。かろうじて目視は出来ましたが、

避けられるような速さではありませんね……」


「MSK、これを使ってください!」


少女が叫ぶと遠くにいる美しい男めがけて遠投。

少し飛びすぎたが、彼はその円形の小さな饅頭?をキャッチした。


「それは魔導フード"エガワ"。食べると動体視力と足腰の力が飛躍的にあがります」


「フッ、助かりますサクラ。これで奴のスピードに少しは対抗できる可能性があがる」


男はそれを一口で頬張ると、体中、特に目と足腰に力がみなぎってきた。

そして、高速で動く爬虫類の男と高速の戦いを繰り広げる。


何度も激突しては間合いを取る、を繰り返す両者。

スピードの上ではさほど差はないのだが。


「パワー デハ オレノホウガ ウエノヨウダナ。

キサマハ ゲンニ オサレテキテイル サイゴガチカイゾ……」


「パワーとスピードだけで勝負が決まるわけではありません」


激しい肉弾戦。防御を捨てた殴り合いが始まった。

殴る場所がなくなるくらい打ち合う両者だが、徐々に美しい男が

後退していく。奴の言うようにパワーの差で押されているのだった。


その時、少女がいきなり着ている白いスカートを脱ぎだした。

そして、可愛らしいパンツの中に手を突っ込む……。

ごそごそと下のほうから何かを取り出し、思いっきり美しい男の

口めがけて投げつけた。


少女は恥ずかしそうにしながら叫ぶ。


「MSK、隠しておく場所がアレでごめんなさい。これを食べてください!」


投げつけられたピンク色の丸いソレは、いつぞや見た魔導アイテム

"イワシタ"であった……。

美しい男はそれを躊躇なく食べ、徐々に彼の体に活力が戻ってくる。


「今です!!!」


爬虫類の男の疲れからくる一瞬の隙を見切り、彼の手刀が男の首を

直撃。骨は完全に砕け……、男はその場に落ち、息絶えた。


美しい男は、その様子を切なそうな目で見ていた。

後ろを向き、去り際に右手の人差指を天に掲げて言う。


「さようなら。貴方は確かに強かった。しかし私のほうが美しかった……。

もとい、美しい仲間がいた。それが勝因です」


ボロボロの男に、半泣きの少女が一気に駆け寄り、

おもいっきり飛びついた。


飛びついた勢いで少し彼がよろける。


「MSK! やりましたね。無事でよかった……。やっとみんなの敵を討てました」


そう泣き崩れる少女の頭をポンと触れ、キザ&クール過ぎる笑顔で

美しい男はつぶやく。


「フッ、貴女のおかげですよ。さあ、帰ってウツノミヤ役所へ報告です」



……。



二人はネオ・ウツノミヤの役所へと帰還。


チクラッポが死んだことにより、彼が召喚していた魔物イバラギークは

全て消滅。ネオ・ウツノミヤに平和が訪れたのだ。


ボロボロの体は後に少女の回復魔導で全快し、後遺症は残らなかった。

今までの態度を一変し、彼を褒め称える巨大なるウツノミヤ総帥。


実力と美しさを買われ、自分の片腕として働いてみる気はないか?

と言われた男であったが、それを断ってしまった。

今は美しさを提供する"肉体アーティスト"という怪しい仕事をしているらしい……。


一方サクラのほうは、集められた新しい職員と共に業務を再開。

新人たちと共に忙しい日々を送っているらしい……。


今日は久々に二人が再開する日。

コ○ダコーヒーでカフェを嗜み近況を語り合った後、とある場所へと

向かった。それは……。


美しい男は、珍しく優しい表情をして、持っていた紙袋を

立っている歪んだ墓標へと手向けた。


「いちごさん。また会いに来ましたよ。今日は貴女が好きだった

乙女ゲーの薄い本を買ってきました」


横にいた少女が、美しい男の横顔をちらっと見ながら言う。


「月に一度、このハチマンヤマパーク霊園に足を運んでいたのですね」


「ええ。私にとっては大切な場所ですから」


「MSK、やはりまだ妹さんのことを……」


「ただの美しい過去です。そう、一時ではありましたが。

今は貴女も居てくれますし、寂しくはありません。

どうです、貴女わたしと……」


サッと、彼から少女が離れた。

見たことがないような笑顔で彼を見ながら、大声で言う。


「サクラは貴方みたいな年増の妹にはなりませんよ!」


それを微笑しながら、目を瞑り聞いていた美しい男。

真っ赤に染まったハチマンヤマパークの夕焼け空をバックに、


「フッ、そうですね。帰りましょうか」


「はい。そろそろテレビでご当地ヒーローが活躍する番組が

放送される頃ですから」


ハチマンヤマパークより見える空の日が暮れていく。






おわり

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【ロリ】超ニートが異世界転生したらそこは異世界っぽい宇都宮だった【北関東】 @loli-kon999

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