第9話 栃木で最も美しい男、最後の戦い
「情報によるとこの建物の二階広間にチクラッポの祭壇があるはずです」
少女は美しい男のほうを振り向き言った。
茶色いツインテールが振り回される。
男は彼女のほうを全く向かず、しかし横顔ダンディズムを漂わせながら
(何故か)しゃくれ気味に言った。
「魔導師チクラッポ……」
「気をつけてください。奴が操る魔導は普通のレベルでは」
バシャアッッ
いきなり、一階通路付近にある水路から水柱が立つ。
そして中から水に濡れた大きな獣たちが二体、回転しながら少女たちの
前に現れたのだ。
ウゥゥゥゥゥゥ
男は両腕を腰の横に握りながら言った。
「イバラギーク!! でかい。フッ、しかも体から発せられる威圧感は
以前倒した個体の比ではありませんね」
獣は一旦低い姿勢になり、その体を反動でスピードに乗せて
美しい男の右足めがけて噛みつかんとした。
ワガ・レツキッッ
少女が高い声でそう叫ぶと、湯気が立つ透明の液体が
獣の頭部を覆う。
やがてジタバタと苦しみだし……そのまま横向きに転倒。
獣は窒息により絶命した……。
それを見ていた残った一匹が、背後から少女に飛びかかる。
しかしその奇襲は美しい男に完全に読まれていた。
彼が放つ美しすぎる膝蹴りによって獣の頭部は胴体とお別れした。
一息ついて、男は倒れている少女を どっこいしょ と持ち上げた。
(その際、胸が体に触れてしまって"ラッキー・スケベ"だったが、
美しい男は自分の肉体にしか興味がないので気付かなかった)
「サクラ、貴女も魔導を……」
「あれは、ただの温泉水を召喚する生活の魔導です。でも、使い方次第で
敵を倒したりもできるんです」
「なんとかとハサミは使いようですか。中々美しい」
二人は駆け足で二階へと急ぐ。
そしてしばらく無人の廃墟を走ると、広く抜けている空間が見えてきた。
祭壇のような装飾された何かの前に、正座する黒いローブの人物。
あれは……? 祀られているご神体のような物は、見覚えがある
ナニかに似ていた。
「サクラ、遠くに見えるご神体のようなもの、ち○こに似ていませんかね」
「えっ、うそ、やだ。サクラは男の人のそういうとこ見たことないので、
わ、わかりません……」
更に近づくと、あきらかに男性の局部をモチーフにした銅像が祀られていた。
少女は意外にも顔を真っ赤にし、視線を下にそらしてソレを直視できないでいる。
「私のほどではないが中々美しい」
「もー、何でここまできて最後に下ネタなんですか。もーむり。
サクラおうちに帰りたいです……」
少女がようやく顔をあげると、二人に気づいた黒いローブの人物が
こちらに、ゆっくりと近づいてきた。
「愚か者どもが。ここへ何をしにきた!! 全知全能なる神、
チンチ・ントーゲ様の前で無礼であるぞ」
一喝する黒ローブの男に、動じず腕を美しく組みながら
男は声をあげた。
「私はマッスル☆君。貴方がた魔導師に殺された妹の敵を
殺らせていただきます」
「ほう、では貴様がリュウオウを倒したという美しい男。
面白い。五体をバラバラに引き裂いて殺してくれようぞ」
すると黒ローブの男は、ハッとした顔をして少女のほうへと
接近する。
「お前は、もしやNo.2? なんということだ。かつて闇の研究所で
私、リュウオウと共に三魔導師と呼ばれ、幼き天才だったお前が
なぜ彼奴らの味方を……」
「言っていることがよくわかりませんね。サクラは子供の頃の記憶が
一切ありませんが」
「記憶喪失……まあよい。いくらお前とて彼奴らの味方だとすれば
死んでもらおう」
キタノン・ゴーケ!!!
黒ローブの男が呪文を唱えると、彼のつきだした右手から大量の
水流が、重力に反して下から上へと上がっていく。
少女の頭上へ水が集まると、一斉に滝のように流れ落ちてきた。
あまりの水圧に倒れ伏し、潰されそうになる少女。
ようやく魔導の力がおさまると、彼女は血を吐きながら倒れていた……。
美しい男はその様子をみていたものの何もできず、
ただ倒れた少女をみながら呆然と立ち尽くす。
「サクラ……」
すると少女は力なく体を起こし、自分の腹部に両手をあてながら
美しい男に苦しそうに笑いかけ言った。
「だ、大丈夫です。この程度なら」
彼女の両手が光輝き、みるみるうちに真っ青になっていた顔色に
血色が戻ってくる。これは一体……。
「高等回復魔導レカツモシです。すごく痛かったのでちょっと泣きそうですけど
もう大丈夫です。下位にカツモシとモシもあります」
美しい男は、とりあえず無事そうな彼女へ安堵の表情を向けた。
その様子をみていた黒ローブの男は、前のめりにつぶやく。
「高等魔導を簡単に使いこなすとは。やはり人違いではないな……」
瞬間!接近していた美しい男は、身構えていなかった黒ローブの男を
思い切り蹴り上げ飛ばした。
男の体が宙を舞い、チンチ・ントーゲが祀られた祭壇へ激突。破壊してしまった。
「貴方は私を、私の美しさを本気にさせてしまった。今に貴方もその
銅像のようになる」
「お、おのれ~……偉大なるチンチ・ントーゲ様をここまで愚弄するとは!!」
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