その12センチに追いついて

八雲side

その12センチに追いついて 1

 コートの襟の隙間から、冷たい風が吹き込んでくる。マフラーを巻いてこなかったことを後悔しながら、僕は店へと入って行った。


 店内は多くの人でごった返している。

 混んでいるのも当然か。一月三日の夜の七時過ぎ、これでガラガラだったらこの店は年内には閉店するだろう。幸いその心配はなさそうだけど。


 近くにいた定員さんに予約してあるはずのグループ名を告げる。すると定員さんは、僕の顔を見て聞いてくる。


「あの、高校生でしょうか?」


 居酒屋に高校生が来るのは、別におかしなことでは無い。お酒さえ飲まなければ問題無いし、クラスの打ち上げで高校生が一部屋貸し切るというのも、そう珍しくは無い。

 だけど未成年の飲酒を防ぐため、こうした年齢確認は度々おこなわれるのだ。もっとも…


「いいえ、高校生ではありません」


 年齢を聞かれることは半ば予想付いていた。ポケットに入れていた免許証を取り出して確認させていると、不意に店の奥から声が聞こえてきた。


「水城?お前、水城か?」


 見るとそこにはすでにほろ酔いしている男性が一人、こっちに向かって手を振っている。


「すぐに分かったよ。お前昔から全然変わって無いからな」


 彼は嬉しそうに近づいてくる。免許証を見せ終えた僕も、懐かしさに胸を躍らせながら彼と向き合う。


「久しぶり。犬塚くん…だよね」

「ああ。中学を卒業して以来だな」


 犬塚くん。彼とは何度か衝突したこともあったけれど、それも昔の話。大人になった今となっては、全てが良い思い出だ。

 七年ぶりの再会を喜ぶように、犬塚くんは僕の肩に手を回してくる。


「もうみんな集まってるぞ。久しぶりだな、このメンバーで集まるのも。お前たしか、成人式の時は来なかったよな」

「あの時はちょっと忙しくて、式だけ出て帰った。けど、今日はこれて良かったよ。卒業以来会っていない人もいるし」


 今日は小学校の同窓会。犬塚くんとは中学も一緒だったけど、他の皆はいったいどんな風に変わっているだろう。


 水城八雲、22歳。今日は昔に戻って、大いに楽しむつもりです。

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