番外編 『八雲くんと霞さんをくっつける会』が出来るまで 2

「無理かもしれないけど、だからと言って好きでなくなるわけじゃないからね。好きな以上は、諦めるよりも諦めない事の方がまだ簡単だから。ちょっと頑張ってみようって思ってる」


 瞬間、いつの間にか集まってきたギャラリーから「おおー」っと歓声が上がる。そして、一人の男子が僕に聞いてきた。


「けどさあ。頑張ってそれでフラれたら、余計に辛くないか。水城には悪いけど、やっぱり難しいわけだし」

「それも分かってる。けど頑張らなくても、例えばその好きな人に彼氏ができた時とか。絶対にあの時頑張っていればって後悔すると思うんだ。だってやっぱり、好きなんだから」


 流石にこれは言っててだんだんと恥ずかしくなってきた。多分最後の『好きなんだから』を言ったあたりでは照れて締まりのない顔になっていただろう。

 だけど言い終わった瞬間、今度は女子の歓声が上がった。


「水城くんスゴイっ!普通そこまではっきり好きだって言えないよ」

「良いなあ。アタシもそんな事言われてみたいなあ」


 皆は何だか興奮気味だけど、別に大したことを言っているわけでは無い。好きになったのなら、これくらい普通なんじゃないの?


「それで、上手く行きそうなのっ?」

「それは分からない。もう好きだって伝えたけど、返事を貰ったわけじゃないし」

「すでに告白済み⁉」

「うん。早く気持ちを伝えてこっちを見てもらった方が、上手く行く可能性があるかなあって思っ…」

「可能性なんてあるかっ!」


 僕の言葉を遮るように、犬塚くんが声を上げた。


「偉そうなこと言ってるけど、どう考えても無理だからな!お前なんて相手にされずに、知らない所で彼氏でも作っちまうに決まってる!」


 たしかにその可能性は高いかも。

 僕の知らない誰かと手を繋ぎ、楽しそうに話す霞さんの姿を想像すると、胸が痛くなってしまう。

 ダメだ、こんな事で心が折れてはいけない。気をしっかり持つんだ。そう自分に言い聞かせていると。


「そんなこと無いもん!」


 いつもは大人しい竹下さんが大きな声を上げ、犬塚くんの前に出てきた。


「霞さんはそんな人じゃないよ!ちゃんと八雲くんのことを見てくれているし、可能性はあるよ!」

「そ、そんなわけ…あるかよ…」


 いつもとは違う竹下さんの勢いに、犬塚くんは圧倒されている。そしてそれに追い打ちをかけるかのように、周りで見ていた皆が声を上げる。


「そうだよ、やってみなくちゃ分からないじゃない!」

「私は応援してるよ」

「水城、その人ってどんな人なんだ?」

「写真無いか写真?」


 何人かにせがまれたので、僕はケータイに保存してある霞さんの写真を表示させる。少し前にハチミツと遊ばせてもらった時に許可を取って撮らせてもらった、お気に入りの一枚だ。けど、待ち受けにしてなくて良かった。さすがにそんなところを見られたら恥ずかしい。


「この人なんだけど」

「おおっ。美人さんじゃないか!」

「さすが水城くんが好きになるくらいの人だねえ」

「何で待ち受けにしてないんだよ。貸してみろ、俺が設定してやる」


 それは止めて。

 ちなみに今の待ち受け画面には元気に走り回るハチミツの姿が映っている。霞さんだけでなく、ハチミツのことももちろん大好きだから。


 僕等が待ち受け画面をどうするかを話している横で、竹下さんも女子から声を掛けられている。


「そう言えば竹下さんは…霞さんだっけ。その人の事を知っているの?」

「うん。何度か会ったことがある」

「へえー、どんな人なの?」

「それは…とっても優しくて、綺麗で…」


 霞さんがいかに素晴らしい人か、語り始める竹下さん。僕はケータイを死守しながら、その話に加わっていく。


「竹下さんはいろいろ相談に乗ってくれているから、凄く助かってる。前に霞さんの誕生日プレゼントを選んだ時も手伝ってくれたし」

「ええっ、そうなの?」

「詳しく聞かせて!」

「それなら私も協力する。今丁度お姉ちゃんがオネショタものの薄い本を書いて、それを手伝っているから。参考にしたい」


 女の子たちは盛り上がっていく。そんな竹下さん達を僕は少し照れながら、犬塚くんは何だか不満そうに見ていた。


「…水城くん」


 不意に名前を呼ばれた。そちらを振り返ると、そこにいたのは昨日僕に告白をしてきたあの子だった。

 まずい、昨日の今日で僕がこんな話をしていたら面白くないかも。


「水城くんに好きな人がいるって、嘘じゃなかったんだ。もしかしたら断るための方便かと思ってた」

「まさか。いくら何でも、嘘をついて断るなんて酷い真似はしないよ」

「そうだよね。水城くんはいつだって真っ直ぐだもの。ねえ、私もこれから応援していい?」

「えっ?」


 一瞬言葉に詰まった。彼女は昨日僕に告白してきたばかりだし、もしかして無理をさせているんじゃないだろうか。だとしたら無神経に応援してほしいなんて言って良いものか?

 そう思って彼女を見て、僕はその考えを変えた。彼女の目は真剣そのもので、無理をしているとかではなく、友達として協力したいと。そう言っているように見えた。僕の都合の良い勘違いでなければ、だけど。


「そうしてもらえたら助かるけど……良いの?」

「もちろん。私だって、ちゃんと水城くんのことを応援したいって思ってるよ。まずは話を聞かせて。竹下さんも、知っていること教えて」

 

 彼女の目に迷いは無く、恋バナはさらに盛り上がって行く。



 そして彼女達はこのすぐ後、ある会を発足させた。その名も、『八雲くんと霞さんをくっつける会』。

 その会は僕の全く知らない所で作られ、秘密裏に活動し、徐々に人数を増やして行ったとか行かないとか。

 ちなみに会長に就任したのは、竹下さんだった。

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