その12センチを埋めたくて 2
小学校が終わり、日が沈みかけた夕方。一旦家に戻ってランドセルを置いた僕は、一人で商店街へときていた。
今日はいくつかのスーパーでタイムセールがある。僕は買い物メモを見ながら、どの順番に回るのが効率的かをひたすら考えていく。
数量限定の品もあるだろうから、出来ればタイムセール開始時には店にいたい。けど行きたい店が複数あるとなると、どうしても優先順位を決めなければならない。
(確か一番近くのスーパーでは、数量限定の品が並ぶことが多かったっけ。けど、そうやって並ぶのは賞味期限がそう長くない食品ってパターンが多かったかな。それよりはその先のスーパーで、安くなった調味料を買う方がいいかも)
いくら安くなるとは言っても、本当に必要なもの以外は極力買わない。それが我が家の買い物の鉄則である。
砂糖や塩といった長持ちするものや、ティッシュや歯磨き粉といった消耗品は、安かったら
即買いと決めている。
逆に野菜や肉といった食料品は、消費期限を見たり、冷凍庫の空きを考えたりして、買うかどうかを判断するようにしている。
僕は先月小学五年生になったばかりだけど、我ながらここまで考えてお使いをする十歳児なんてあまりいないんじゃないかと思う。
けど、日々の買い物とは戦いだと、姉さんがいつも言っていた。だったら僕もそれを見習って、少しは無駄な出費は押さえたい。何しろ、家庭があまり裕福とは言い難いものだから。
母さんが残してくれた貯金と保険金。それに姉さんが日々のバイトで稼いでくれるお給料が全てだ。姉さんが稼いでくれるのなら、僕は自分で出来る範囲で良いから支出額を減らしていきたい。そのためには、買い物一つにも気を配らないと。
そんなことを思いながら、最初のスーパーへと足を向ける。しかしその時、ポケットの中でケータイが震えた。どうやらメールを着信したようだ。
取り出して確認してみると、差出人は姉さんになっていた。けど、問題はその内容だ。
『もう買い物に行っているかもしれないけど、もし友達との約束があったりしたらそっちを優先してね。連絡してくれればバイト帰りに私が行っても良いんだから。アンタはもっと自分のやりたい事をやりなさい。そうでなくても普段から家の掃除や……』
そこまで読んだところで、僕はケータイを閉じた。全文を読んでいたら、きっとタイムセールに遅れてしまうだろう。
続きに目を通すのは買い物が終わった後でも良いだろう。きっと残りも僕のことを気遣う文面が続いているだけだろうし。
「今はバイトの休憩時間かな?こんなメール送ってないで、ちゃんとゆっくりしてればいいのに」
休憩中にせっせとメールを打つ姿を想像しながら、思わずため息をつく。
こんな風に気を使わせてしまうのは、僕がまだ頼りない子供だからだろう。そう考えた時またしても、早く大人になりたいなあなんて思ってしまった。この思考はもはや癖になってしまっているみたいだ。
(焦ってもどうにもならないのにね)
自身に呆れながら、商店街を歩いて行く。
目指すはタイムセール。こうしてできる事を少しずつでもやっていけば、いつかは変に気遣われることも無い大人になれるのかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇
今日の買い物は大豊作だった。
洗剤にトイレットぺーパー。残り少なくなっていた醤油に、日持ちのする砂糖。更には特売の野菜や果物、半額になっていた鶏の胸肉など、とにかく買う物が多かった。
鶏の胸肉は今夜の夕飯に使おう。今日は姉さんがバイトに行ってるから、帰ってくる時間に合わせて調理しておくとしよう。
頭の中でレシピを思い浮かべながら、ひたすら商店街を歩いて行く。それにしても……重い。
両手いっぱいに抱えられた袋の総重量は、もしかしたら十キロくらいあるかもしれない。小学生の僕がこれらを抱えて家まで帰るのは、ちょっとした重労働だ。
少し買いすぎたかな?いや、どれも買っておいて損のないものばかりだ。家に帰るまでの少しの間、頑張れば良いだけこと。
袋を持ち直すと、家に向かって歩を進めようとした。だけどその時。
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