16 歓迎会

 脇実組の置場で暇をつぶしていると、続々とダンプが帰ってきた。運転席から降りてきたのは無口な連中ばかりで、児玉が挨拶しても誰も返事をしなかった。それでも新顔の仁義で、児玉は挨拶を続けた。置場に集まった運転手は全部で6人、脇田と児玉を入れると8人だった。

 「はじめんぞ」脇田の号令でなにが始まるのかと、児玉は手持ち無沙汰に古顔の運転手たちの様子を見つめていた。

 男たちはユンボのバケットの爪に鉄板をぶら下げて、ブロック積みの台に乗せ、下にプロパンガスのバーナーを据えた。その間に脇田はベンツのトランクから10キロはありそうな牛バラ肉の切り落としと、ザク切にした大量の野菜を出してきた。分厚い鉄板が焼けた頃合を見計らって、肉と野菜が山盛りに投入された。ジューっと豪快な音を立て油の焦げる匂いが立ちこめた。全員にペットボトルのお茶と使い捨ての皿が配られ、女っけがない鉄板焼きパーティが始まった。

 「オメエの歓迎会なんだから、腹いっぱい食えや」脇田にうながされて、児玉も焼けた肉を掬い上げた。予想外のうまさに目が覚めた思いがした。

 「どうだ、うめえか」脇田が自慢そうに言った。

 「うまいっす」児玉は素直に答えた。

 「だろう。鉄板が厚けりゃ厚いだけ肉はうまいんだ。オメエにはとっておきの肉も買ってきたからな。下手なステーキ屋をまかす味だぜ」そう言うと、脇田はベンツからステーキ用にカットした牛ロースを取ってきた。5キロはありそうな塊だった。脇田は器用に肉をカットした、

 「オメエら、覚えとけよ。こいつはな、組長をばらした鉄砲玉だぞ。お勤め途中でシャバに出たばっかだ。うちで面倒みることになったからよろしく頼むぞ」脇田は虚実ないまぜて児玉を紹介したが、名前は言わなかった。

 古顔の運転手たちは完全に新参の児玉を無視していた。名前も聞かないし、出自に興味もなかった。できるだけ余計なことは言わない聞かないが、脇実組のモットーだった。ただ仲間の顔だけ知っていればいいのだ。脇実組は一発屋軍団で、収集運搬業の許可があるのは社長の脇田1人だった。

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