11 無敵

 破鬼田が事務所を出たのを確かめると、児玉は自力で立ち上がった。ぼろぼろに見えたが、すでに回復していた。

 「あんた、お腹の傷開いてるよ」

 「もう俺に近づくな。それから朱雀隊は目つけられてる。解散したほうがいいってリカに言っとけや」児玉は1人で事務所の階段を降りはじめた。

 「待ってよ」ナオは児玉の後を追った。

 「ついてくんなって」

 「なによ偉そうに。どこ行く気なのよ」

 「けりをつけてえことがあるんだ」

 「これ以上騒ぎを起こしたら殺されるよ」

 「でえじょうぶだ。俺の命には何百万か値がついた。めったなことはもうできなくなったんだよ」

 児玉はアイーダに戻った。ナオも後からついてきた。雑居ビル前の路上で立ちんぼをしている落合はすぐに見つかった。児玉とナオを見ると、落合は怯えたように立ち尽くしたが、仲間の手前逃げ出しはしなかった。

 「オメエ、生きてたのか」

 「落合のあにい、ちょいと顔貸してくれませんか」

 「仕事中だわ」

 「お手間は取らせませんよ」

 「じゃあ5分だけだ」

 「それでいいっすよ」

 児玉と落合は雑居ビルの裏手の路地に回った。児玉はいきなり落合のみぞおちにけりを入れ、崩れ落ちる落合の首を絞めた。

 「てめえきたねえぞ」不意をつかれた落合は、苦しそうにもがきながら必死に逃げようといざった。

 「きたねえのはどっちすか。いきなりナイフ使ったのはそっちっしょ。だけど、そんなことはいいんすよ。1つ聞きたいことがあるんすけどね」

 「なんだよ」

 「破鬼田のあにいは、なんであんなに偉くなったんすか。フェラーリなんか乗れる身分じゃなかったっしょ。破門だって、どうせゴミ屋やらせるためっしょ」

 「縄張り売ったかんだろう」

 「親分でもねえのに縄張り売れるんすか。なんか秘密があんでしょう」

 「オメエがよく知ってんじゃねえのか」

 「俺が」

 「そうだよ。オメエがからくり知ってっから消そうとしたんじゃねえのか」

 「俺はなんも知んないすよ」

 「オメエが知らねえなら俺も知らねえよ」

 「ほんとすか」児玉は落ち合いの首に絡めた腕に力をこめた。

 「知らねえったら」

 「あんた、やばいよ」ナオの声で、児玉は路地につめかけるアイーダの黒服たちに気づいた。

 「オメエは逃げろ」児玉がナオを諭した。

 「だって」

 「今度捕まるとやべえぞ。俺はでえじょうぶだから、早く逃げろ」

 「うん」

 「あにい、お別れっす」児玉は落合の首を決め落としてから黒服たちに対峙した。

 逃げながらナオが振り返ると、黒服たちを投げ飛ばす児玉の雄姿が見えた。黒服程度が相手なら児玉は無敵だった。

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