2 仮放免

 翌朝になって、やっと制服の警察官が1人捜索にやってきて、留置場の中で憔悴しきった6人を発見した。

 「オメエらほんとに生きてっか」警察官が驚いた顔で言った。

 「なんとかなあ。お巡りさんらはどうだあ」宇田川が地元のアクセントを上手に真似て言った。

 「署に居た半分は行方知らずだわ。とにかく出ろや」

 「出ていいのけ」猪俣が言った。

 「検事さんの特別の計らいだ。全員釈放すんぞ」

 「ほんとけ」柳生が言った。

 「書類もなんもねえんだ。どうぜ起訴はできめえよ。オメエらをかまってる暇もねえわ。そんかわり2度と悪さばすんなよ。無罪放免てわけではねえぞ。仮の起訴猶予なんだから再犯すれば重犯になっから気いつけれや」

 「そっか。そういうことか」卯月が言った。

 「おまえら、表に出たらたまげっぞ。なあんもねえかんな。自力でどこさでもけえれ。なにをしてもええけどよ、盗みだけはぜってえすんなよ。わかったらさっさと行け」

 「あのう、預けといた携帯とか財布とかは」猪俣がおずおずと言った。

 「あんもねえべよ。だけっどそうさなあ」警察官は自分の財布を取り出した。「これは俺の餞別だわ」そう言いながら千円札を6枚取り出した。

 「俺、けえしに来ますよ。お巡りさんもてえへんなのに」横瀬が言った。

 「心にもねえこと言うでねえ。とにかく生きててよがったっぺ。はえとこ行け」

 「どっちがひでえんですか」猪俣が尋ねた。

 「ここらもそうとうひでえんだけんど、川向こうの荒浜もそっくり流されたとよ。三陸方面も津波で全滅だと。福島はそれほどでもねえらしい」

 「じゃ、南に行けばいいすね」猪俣が言った。

 「いいかどうかわかんねえ。南には原発があんぞ。事故があったらしいかんな。南も気いつけれ」

 「じゃ、西が安全なんすね」猪俣がまた念を押すように言った。

 「高速の上まで行けばでえじょうぶだ」警察官が答えた。

 「俺は行くぜ」児玉は太い指で千円札をひったくるように掴むと、全壊状態の警察署を飛び出した。道路に残った海水がビシャビシャと跳ね上がった。

 「おい児玉、待てや」宇田川が声をかけたが、児玉は振り返らなかった。

 児玉の向かった方角は南だった。卯月も児玉の後を追うように南に向かった。猪俣、宇田川、広瀬の3人は津波の被害が少ない西へ向かった。柳生は津波で壊滅したと聞いた北へ向かった。想像力たくましく、津波で流されたに違いない金庫を狙っていたのだ。

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