Schedule5 海で人口呼吸の堤さん
「わぁ~、つっつんの水着可愛い~!!」
「菜月ちゃん」
弌濃菜月。体が少し弱いけれど、いつも明るい可愛い子。パラソルの下に座っていると、私の水着を褒めながら彼女がやってきた。
「ありがと。菜月ちゃんもその格好似合ってるよ!」
彼女は海で泳ぐような激しい運動はできないみたいで、水着は着ていない。清潔感のある真っ白のワンピースを、麦わら帽子をかぶりながら着こなしていた。
「菜月も本当は泳ぎたいんだけど、暑いお日様を浴びただけで疲れてきちゃった・・・。ねぇ、つっつん。ちょっとでいいから膝の上で寝させてくれない?」
「まぁいいけど」
「やったぁ!」
彼女はにっこり笑う。帽子を脱いで頭を私の膝の上に乗せる。
「つっつん水着だから、いつも以上にムチムチの膝を直に堪能できて幸せだよ~」
「安い幸せだね・・・」
私、自分の膝をムチムチだとか思ったことないけどな・・・。
「すーすー・・・」
しばらく時間が経つと菜月ちゃんが寝息をたてはじめる。本当に寝ちゃった。私は猫を飼ったことがないけど、猫に膝の上で丸くなられるってこんな感じなのかな、みたいに思いつつぼーっと海を眺める。
「やぁ、堤さん!」
「ん、士会くん」
「あれ?弌濃さんどうしたの?もしかしてどこか具合が・・・」
「ああ、大丈夫だよ、心配しないで。ちょっと疲れただけだって」
「そうなんだ、なら良かった。ぼくもちょっと泳ぎ疲れちゃって。隣に座っていいかな」
「うん、どうぞ」
士会くんが私の隣に腰を下ろす。
「やっぱり海っていいよね。みんな子どもみたいにはしゃいできらきらしてるもん、歯が」
「歯がかい」
歯医者大好き、歯も大好き、士会志羽。歯医者の定期検診に情欲を覚えるアブノーマル。
「普通男子だったら女子の水着とかに目がいくものじゃないの?」
「ぼくは普通じゃないしなぁ」
「自覚済みね・・・」
まぁ、好きなものは人それぞれではあるけど・・・。
「ほら、ぼくってマウスマスターでしょ?だからどうしても口周りに魅かれちゃって」
「知らない職に就かないでくれる?」
何さ、マウスマスターって。
「口腔周辺のことについては、ぼくは人一倍うるさいってこと。それでね、ぼくちょっと海に関して一つ物申したいことがあって」
「物申したいこと?」
「人工呼吸って、どう思う?」
「どうって・・・。治療法でしょ?」
「そう!人命を救うための真面目な治療法なんだよ!それなのに漫画とかさ、海で人が溺れたときたら、誰が人口呼吸するかであたふたする場面が多すぎるよ!」
「・・・嫌なの?」
「だっておかしくない?人工呼吸が必要ってことは、その対象は息をしていないんだよ?つまりは死にかけているのに、唇の接触だからってヒロインのうち誰がやるか揉めたりさ」
確かに一理あるけど・・・。あくまでフィクションだしねぇ・・・。
「人工呼吸は人の命を救う神聖なものなんだよ!ラブコメの為に使われる軽いものじゃないの!おふざけ人工呼吸は駄目なの!そもそも・・・」
「分かったから、マウスマスター!ちょっと落ち着きなって!」
夏の日差しよりも熱い情熱を私にぶつけられてもね・・・。
「ん、んぅ・・・」
「あ」
私の膝の上で寝ている菜月ちゃんが目を覚ます。
「ちょっと、士会くん!大きな声で話すから菜月ちゃん起きちゃったじゃん!」
「ごめん、つい熱が入っちゃって・・・」
「・・・ねぇ、つっつん」
「どうしたの、菜月ちゃん」
「うっ・・・!」
「え?」
「はぁ、はぁ・・・。ねぇ、つっつん・・・菜月、何だか急に苦しくなってきちゃった・・・。もう、駄目、かも・・・」
「・・・ん?」
「もう、ダメ・・・。つっつんから人工呼吸してもらわないと、息、止まるよぉ・・・」
がく、と菜月ちゃんは体の力を抜きぐったりとさせる。えーと、ね。何この三文芝居?
「何してんの、菜月ちゃん」
「・・・つっつんの膝を長く感じていたら・・・発情しちゃって」
「何でだよ!?」
「・・・お願い、つっつんの呼吸、ちょうだい・・・?」
呼吸って自由に譲渡するものだったっけ?
「まったく、もう・・・。士会くんも止めてよ!」
「何やってるの、堤さん!早く人工呼吸してあげないと!」
「まさかのフォロー側!?」
「だって本人が息止まってる、って言ってるし」
「言ってる時点で止まってないじゃん!」
無呼吸発声法とかないし!!
「大体さ、士会くん!これってさっきあなたが言ってたおふざけ人工呼吸でしょ?マウスマスターとして容認していいわけ?」
「正直女の子同士が唇を合わせるところを見る方が興味ある」
「さっきの神聖だ云々言ってた口はどこ行ったんだよ!!」
ハリボテの信念だな、おい!
「でもね、堤さん。人工呼吸を練習しておくのは絶対に損にはならないよ」
「いや、そうかもしれないけどさ、それだったら人形とか使ってやれば・・・」
「大丈夫だよ、つっつん。今の菜月もお人形さんみたいに動かないから、躊躇わないで好きにして?」
「いやいや、そうは言ったって・・・」
「ただのドールだからさ」
「いや英語にしちゃうとちょっとね?」
「ダッチワイフだと思ってさ」
「言い方関係ないから!!ってか、どんどん卑猥にしなくていいし!」
・・・というより、英単語の意味がわかっちゃう自分も嫌だし・・・。
「もー。何でそんなに躊躇うの?」
「唇を合わせるからに決まってるでしょ!」
それ以外に理由ないから!
「あ、もしかしてつっつん勘違いしてない?」
「勘違い・・・?」
「人工呼吸って言ってもね、そんなに長く舌はいれないから安心してよ」
「そもそも舌はいれねぇよ!!」
時間の問題じゃねぇ!!
「あれ?そなの、士会くん?」
「うん、残念ながら・・・」
「残念ながらとか言うな」
「そうなんだ。じゃあいいや」
「え?」
菜月ちゃんはさっきまでと違って冷めたような顔をして、すっと立ち上がる。じゃあいいって・・・。え?それが最大の目的なの?
「私、つっつんとはもっとじっくりロマンチックにキスしたいし」
「・・・へ?」
「じゃあ、これ以上は外にいるのは辛くなってきたから、菜月は先に旅館に戻ってるね。また後でね~」
菜月ちゃんはさらっと何かとんでもないことを言ってこの場を去って行った。
「・・・ねぇ、士会くん。今の、私の聞き間違いだよね?」
「・・・何か、いろいろ大変そうだね、堤さん・・・」
to be continued...
ツッコみまくりの堤さん 期待の新筐体 @arumakan66
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