Schedule4 海で水着の堤さん
「「海だーーーー!!」」
臨海学校のメインイベント。最早学校ではなくただの遊びな、海での自由時間。皆々がろくに準備体操もせずに、海岸を走り回り海に飛び込む。私は泳ぎは苦手じゃない。だからもう少し若ければ、例えば小学生ぐらいだったら、何も考えずに皆といっしょにはしゃいだだろう。・・・でも今は。
「・・・格差社会を感じないには、私は歳を取り過ぎた・・・。水着というウエポンの前じゃ、私の力はあまりにも未熟・・・」
「・・・勝手に人の思考を語らないでくれる?」
海から離れた砂浜で、パラソルで陰になっている中みんなを眺めていると、隣に男子が一人座ってきた。オタク高校生、中尾拓也。
「うん?間違っていたか?」
「間違っていないところが尚失礼だからね?」
確かに立派な胸を揺らすみんなを見て、物憂う感じの顔はしていたかもしれないけどさ。
「泳がないのか?」
「だって、何だか気が引けるし・・・」
「胸が小さいことが、か?」
「うわー、めちゃくちゃはっきり言うー」
ぐさっ、って刺さる音聞こえたけど、今。
「気にするな。女の価値は胸じゃない。それに、もし漫画のキャラクターが巨乳しかいなかったら変わり映えがせず全然面白くない。貧乳キャラがいてこその巨乳なのだよ」
・・・一応のフォローのつもりなのかな。
「じゃあ中尾くんは、胸は別に執着ないの?」
「大きいに越したことはないが」
「
結果、フルボッコにしに来ただけだしっ!!
「ほら!中尾くんこそさっさと泳ぎにいけば?」
私はちょっと怒った風に言う。
「せっかく海に、しかもこんな若い男女たちといっしょに来たんだ。様々な漫画的シチュエーションを調査せずしてどうするというのだ?」
「若い男女って、私たち同い年だからね?」
「ということでだ、堤くん。海に入らないのなら、さっそく一つ協力してもらっていいか?」
「お断りで」
「うむ、そういうだろうと思っていた。だからといって僕がひくわけもないのだが」
「だよねー」
素直に聞くタマじゃないし、ウチのクラス。
「一応聞いてあげるけど、何?」
「堤くんをヌルヌルにしたいのだ!」
「えっと、現行犯でいいよね。近くに交番あるから行こっか」
私は中尾くんの両手首を縄で結ぶ。
「いや待ってくれ!僕が何かおかしいことを言ったか!?」
「自覚しろよ」
ヌルヌルって男子が女子に言っちゃいけないワードだろうよ、絶対。
「僕はただこの手で堤くんの柔肌をヌルヌルした液体でこねくり回したいだけだ!」
「セクシャルハラスメントで訴えるよ?」
「何でだ?女子にとって肌のケアは重要じゃないのか?」
「肌ぁ・・・?」
そりゃあお手入れは大事だけど・・・。ん?ヌルヌルで肌って・・・。
「え。要は私に日焼け止めを塗りたいってこと?」
「それしかないだろう!何か違ったことでも考えていたのか?・・・いやらしいやつめ」
「お前が言うな」
じゃあ最初っから日焼け止めって言えっての!
「よくあるんだよ、海のシーンでは!ヒロインが主人公に背中に日焼け止めを塗るようにせがむ場面が!それが一体どのような気持ちで行われるのかが知りたい」
「・・・動機はよく分からないけど、結局は嫌だよ。男子に日焼け止め塗られるなんて」
「どうしてもか?」
「まぁ、どうしても」
「・・・分かった。じゃあ今から僕は堤くんを脅す」
「・・・普通脅すって自分で言わないよ?」
「・・・堤くん。臨海学校とは一体なんだと思う?」
「え、なに急に。哲学?」
「ただの学校行事の一つ。まさかそんな風に考えてはいないだろうね」
「いやそりゃあみんな楽しみにしているビッグイベントだと思っているけど・・・」
「甘いっ!!」
「声でけぇよ・・・」
「臨海学校とは、海で女子が水着姿を晒し水しぶきをあげながら可憐に舞う姿を目の当りにできる唯一の機会だ。アニメや漫画でも、修学旅行編や臨海学校編は、様々なトラブルの勃発点として、実に重要なファクターとなっている」
出た、オタク理論。
「そんな状況に今僕は身を置いている。ならば僕が興奮していないわけがないだろう?」
「いや、ないだろうけど・・・。それがどう日焼け止めと関わってくるわけ?」
「この臨海学校が始まったばかりの今の内に、ある程度女子とスキンシップをとって興奮を沈降させておかないと、僕が今後どんな間違いをするか分からないぞ?みんなが楽しみにしている臨海学校を台無しにするほどの事件を起こすかもしれないぞ?」
「うっわー、すっごいダサい脅し・・・」
自分が自制心が無い人間って吐露しただけだし・・・。ただ、地味に説得力はあるような・・・。うーん・・・。
「・・・分かったよ」
「本当か!?」
「うん、背中には日焼け止め塗っておかないと、とは思ってたし」
あとどうせ私がごねても滅茶苦茶しつこいだろうし。
私は海についてから今までずっと、恥ずかしさから水着の上にTシャツを一枚着ていた。日焼け止めを塗るということで、私はそれを脱いで水着姿になる。本岐ちゃんに私が選んでもらった水着は、フレア・ビキニとか言うもの。トップとボトムがフリル状の布で覆われていて、ビキニの中では露出は少な目・・・なのかな?ちなみにデザインは白をベースとした控えめな感じ。
「ほら、ちゃっちゃと塗っちゃって」
「外してくれ」
「はい?」
「水着の紐を外して背中を出してくれ」
「・・・やっぱりそういうものなの?」
「2次元の日焼け止め塗りはまずこのスタイルだ」
「ん~・・・」
背中を晒すっていうのも、結構相当に恥ずかしいんだけどな・・・。なんて言ったところで聞く耳持たないだろうし。私は顔を赤くしつつ、水着のトップの紐に手をかけて、結び目をほどき背中を露わにする。
「ほ、ほら!これでいいでしょ!恥ずかしいんだから、早くして!」
「言質が欲しい」
「げ、言質ぃ・・・?」
「もう一度改めて、僕が塗ってもいいことを自ら許可してほしいんだが」
「・・・はいはい、心配しなくても後で怒ったりしないから」
「『中尾くん、私の背中をヌルヌルにしてください』って言ってくれ」
「おい!!」
「頼む。今後のクラスメイトの為に」
「ぐ・・・」
調子に乗ってからにぃ・・・。
「な、中尾くん。わ、私の背中をヌ、ヌルヌルにしてください・・・」
「・・・そんなに言うならば仕方ないな。分かった」
・・・後で覚えてろよ・・・。
「では」
「え、あ、ちょ・・・」
・・・考えてみれば、私、男性に背中を直接触られるなんて初めて・・・。あれ?結構これっていかがわしいんじゃないの?あ、何か緊張してきた。
「いくぞ・・・!」
「んっ・・・」
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「・・・って!!塗れよ!!」
結局、さんざ焦らした挙句、中尾くんは私に一切触れなかった。
「もう背中だして言質まで取らせてあげたんだから!!ここまで来たら塗れよ!!」
「・・・こうでもしないと、水着姿にならなかっただろ?」
「え?」
「聞いてるよ、新しい水着を買ったこと。せっかくこの日の為に新しい水着を新調したのに、それをお披露目せずに終わってしまうのはよくない。さっきも言ったが女の価値は胸じゃない。堤くんが水着を着るというだけで、僕たち男は十二分にテンションをあげられる。堤くん、凄く可愛いぞ、その水着姿」
中尾くんはにっこりと笑いながら、真正面から褒めてくれた。
「それでは僕は海に行ってるから、また後でみんなにもその姿を見せてやってくれ。じゃあな」
彼は私の方を見ずに、右手だけをあげてさよならを告げる。そうか、すべては私のことを考えてくれた上での─。
「って、待たんかい」
「・・・あれ?」
まるで、自分勝手な悪人キャラが、本当は相手のことを思っての行動を起こして実はいい人の2枚目キャラみたいなスタンスでこの場から去ろうとする中尾くんの肩をがちっと捕まえる。
「確かに水着になるきっかけにはなったから、そこはまぁちょっとぐらいは感謝してもいいよ。でもさ、何で辱める必要まであったのかな~?」
「何だか・・・楽しかったから」
「正座」
そこからしばらく、炎天下に晒させながら中尾くんに説教した私だった。
to be continued...
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