Schedule3 旅館に着いての堤さん
「・・・わぁ、立派な旅館・・・」
バス移動が終わり、私たちは旅館に入る。古風かつ優雅な雰囲気を醸し出すその外見は、地元でも有数の伝統ある旅館らしい。プライベートで泊まろうとしたら随分と高くつきそうな高級感溢れる木造建築に足を踏み入れる。
「ふ~・・・」
私は自分の部屋に着くやいなや、荷物を床に置いてすぐにぺたんと腰を下ろした。
「情けないですね、まったく。まだ始まったばかりじゃないですか」
「疲れるんだよ、いろいろと・・・。ちょっとは休憩しないと。あ、そういえば玲ちゃんは?」
「流石にあのまま放っておくわけにもいかないので、先生が預かっているみたいですよ。まぁ、あの調子だとすぐに動きまわりそうですけど」
「確かに」
「まぁいいです。私は委員会の集まりがあるのでもう出ますね。皆さんも遅れないようにしてください」
「はーい」
風紀委員の東葛さんが皆に勧告をいれて部屋を後にする。部屋割りは出席番号順に5人ずつ振り分けられる。私たちの部屋は、東葛さん、能武さん、駿河さん、しずちゃん、そして私の5人。
「それにしても、まさか切舞くんにあんな可愛らしい妹がいたなんてね。知ってたのかい、このみん?」
能武さんが話しかけてくる。
「まぁ前にちょっとね」
「しかもブラコンときてるし。いいねぇ、ああいう子は。あとで小説のための取材にいかないと」
携帯イジリが日課の彼女。小説執筆が趣味でいろいろ情報を集めているらしい。
「それにしても、相変わらずイキイキしてるね、このみんは」
「イキイキって、そう捉えてもらわれるとちょっと困るんだけどな・・・」
私としては声を荒げずに落ち着いていられたらそれでいいんだよ・・・。
「まぁそう言わずに。他のみんなだって、このみんのお陰でのびのびできるんだから」
「そう?」
「そうそう。人にとって一番嫌なのは自分のことを無視されることだからね。だからこのみんみたいに、自分のことにしっかり興味を持って接してくれる、っていうのは嬉しいんだよ」
「む・・・。そう面と向かって言われると・・・照れるね」
「本当のことだからね、仕方ないさ。ウチたちは高校生とはいえまだまだ子供だからさ、しっかりと見守ってよ、ね?」
「うん、分かった。ありがとね、能武さ・・・ってぇ!!何で全裸になってんのぉぉおお!?」
目の前には一糸まとわぬ姿をさらす変態がいた。
「遅いよ、つっこみ」
「いやだって!!何かちょっといいことっぽい感じで語らってなかった!?いつの間に脱いでたわけ!?」
「だっても何も、この後はみんなで海に行くんだから水着になるのは当たり前でしょ?」
「そうだけど!だとしても着替え方があるじゃん!」
いくら女同士とはいえ・・・。裸を晒されると思わずドキっとしてしまった。
「ウチ、そういう細かいこと苦手でね。男もいない空間だから別にいいんじゃない?それにさ、そんなに声を荒立てることでもないって。ウチとキミの仲なんだし」
「いやいや、私と能武さんは別に・・・」
「どどど!!どういうことだ!?」
「えー・・・」
何故だか駿河さんが急激に喰いついてきた。
「教えてあげようか。ウチたちはお互いに濡れあった仲なんだよ」
「ななな、なに!?」
「いや、あれは単に雨に降られただけだから!!誤解を生む言い方しないで!?」
「何だ、雨か・・・。ふぅ、良かった・・・」
駿河さんが心から安心した、みたいな顔をする。・・・さっきから何か変なリアクションするな・・・・。
「ふぅ~ん・・・。ねぇ、もしかして駿河さん。このみんのコト、好きなの?」
「んなっ・・・」
「え?えぇぇええええ!?」
思わず叫んでしまった。
「え、そ、そうなの!?駿河さん!!」
「ち、違うっ!!わ、私は堤さんのことが好きだとか、そういうことじゃない!!」
「そ、そうだよね・・・。私たち普通の友達・・・」
「ただ私のことをペットとして躾けて欲しいだけだ!!」
「もっと駄目だから、それーー!!」
アブノーマルになっちゃってるから、それーー!!
「一回だけでいい!私に首輪をつけて公園で散歩してくれないか!?」
「できるか!!」
「あ、もしするってなったら、小説の参考にするから呼んでくれる?」
「とめろよ、外野は!!」
「じゃ、じゃあ・・・それが駄目ならせめて・・・」
彼女は急にもじもじしながら口ごもる。どんな『せめて』を言うわけ・・・?
「そ、その・・・。私のことを、小春って、名前で呼んでくれないか・・・?」
「高低差がありすぎる!!」
普通すぎて逆にびっくりしたな・・・。大体、ペットの件はあんな堂々と言えたのに、名前呼びの件は照れるって、普通逆でしょうよ・・・。
「まぁ、いいよ、それくらいならもちろん。改めてよろしくね、小春ちゃん」
「~~~っ!!」
「え、どしたの・・・」
「あ、あと30回くらい言ってくれないか・・・」
「いや多いだろ」
随分と満足そうな顔をしながら、小春ちゃんは着替えを再開する。
「名前で呼ばれて満足するなんて、あの子もまだまだお子様だね。ウチだったらキミとなら、アムロフィリアとかカトプトロノフィリアとかコプロラリアみたいな嗜好を用いてプレイできるのに」
「え、何て?」
理解不能なワードが一気に頭の中を流れた。
「あれ?意味知らないの、このみん?」
「逆に何で私が知ってると思うわけ?」
そんなカタカナの羅列分かるわけないし・・・。いやらしい意味だってのは想像つくけど。
「能武さんは小説書くから語彙あるかもしれないけど、大体ね、普通の人はそんな言葉の意味知ってるわけ・・・」
「・・・アムロフィリアは疑似盲目性愛で、カトプトロノフィリアは鏡像投影性愛でコプロラリアは猥語性愛のこと・・・」
「へーそーなんだー。しずちゃん詳しいー・・・ってぇ・・・アンタが言うんかいっ!!」
突如現れた伏兵に、思わず声を荒げる私。
音無静。恥ずかしがり屋で物静かなタイプなのに・・・。
「いやいやいや、何でしずちゃんが知ってんの!?」
「・・・わたし、内気だから・・・。それを克服しようと思って・・・」
「どゆこと!?」
内気解消の為に何故そういうことを覚える回路になるのかがびた一文分からないんだけど・・・。
「・・・わたし、内気だから・・・。実際にするときはアムロフィリア的な目隠しプレイがいいと思うんだけど・・・。どう思う・・・?」
「いや知らないけど!?」
目隠しプレイの是非を問われても困るし!!
「ね、ねぇ、つつみさん・・・」
「な、なに、しずちゃん・・・」
「わたし、今から水着に着替えるから・・・。もしよかったら、わたしの着替えるシーンを隅々まで見てくれないかな・・・」
「うん、もしよろしくないよ?何故に?」
「・・・わたし、内気だから・・・。まずは身の方を解放しなきゃと思って・・・」
「・・・あのさ、『わたし、内気だから』さえ言えばどうにかなると思ってない?」
しずちゃんの内気解消作戦がズレた方向に進んでいるのを知った今日この頃だった。
to be continued...
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