第11話 家族

11-1

 これは、いつの記憶だろう。

 祖父が俺に、物語を話してくれている。

 まだ小さかった俺は、その話を楽しそうに聞いていた。


「龍の姫」


 祖父は、そう言った。




「むかしむかし、あるところに龍と人が一緒に暮らす国がありました。

 龍は人にたくさんの知恵を渡し。

 人は龍に感謝のしるしをたくさん贈りました。

 人と龍は、お互いがお互いを支え合って暮らしていたのです。


 龍の女王は龍の姫と一緒に森に住み、毎日人にたくさんの知恵を授けます。

 大陸一の王様や、貧しい村の長老、恋に悩む女性など。

 女王の元には、毎日色んな人がやってきました。


 その中で、女王はとある旅人の男性をとても気に入ります。

 彼は違う国からやってきて、たくさんの楽しい話を龍に聞かせてくれたのです。

 彼だけが、龍の女王に何も求めず、ただ楽しい話を聞かせてくれたのです。

 そんな彼に、女王は大切な教えをあげました。

 大成功するための、大切な教えです。


 人に感謝され、龍はいつしか『神様』と呼ばれるようになりました。


 でもある時、国王様に内緒で、悪い大臣が戦争を起こそうとしました。

 隣の国を支配して、もっと国を大きくしようと企んだのです。

 大臣は言葉巧みに龍をだまし、戦争に勝つ方法を龍に話させようとします。


 しかし、龍は賢いので大臣の考えなどお見通し。

 嘘の知識を大臣に教え、戦争を防ごうとしました。

 龍に嘘をつかれた大臣は大失敗。

 戦争に敗北し、王様からひどく怒られます。


『龍が嘘をついたせいですよ』


 何て言うことでしょう。

 悪い大臣は、すべての罪を龍に被せてしまったのです。


 すっかり大臣の言葉を信じた王様は、龍を嘘つき呼ばわりします。

 そして、龍が住んでいる森を焼き、龍の女王と龍の姫を追い払ってしまいました。


 龍の女王はとても悲しみ、龍の姫を逃がすと、人に罰を与えました。

 罰を与えられた国は滅び、豊かだった土地は人が住めなくなってしまいます。

 でも、龍の女王は、人のことがとても好きでした。

 聡明な龍は、悪い人も良い人も居るのだと知っていたのです。


 だから龍の女王は、大切な龍の姫を信頼出来る人に預けることにしました。

 それは、あの旅人です。

 旅人は龍の女王の教えをちゃんと守って、豊かな暮らしをしていたのです。

 だけど、その心には、ちゃんと優しさが残っています。


『この子をどうか幸せにしてあげてください』


 龍の女王の頼みを、かつての旅人は快く聞き入れました。

 

 龍の姫を預かった旅人は、たくさんの愛を与えます。

 それは、かつて旅人が龍から授かった教えでもありました。


『家族を大切にすること』


 それが、旅人が成功するうえで守った、たった一つの約束だったのです。

 龍の姫は、たくさんの愛情を注がれて、いつまでも幸せに暮らしました」




 その話を、俺はよく覚えている。

 かつて、祖父がよく俺に聞かせてくれた話だ。


『龍の姫を忘れるな』


 祖父は、ノートにそう書いていた。

 どうして忘れていたんだろう。

 龍の姫は、あの童話のタイトルだったじゃないか。


 祖父はかつて事故に遭って死にかけたことがあると親族会の時、芳村のおばさんが言っていた。

 そして、それ以降、人が変わったように家族を大切にしたのだと。


 俺が未来であの女に出会ったように。

 死にかけた祖父が、別の世界にいる龍と出会ったのだとしたら。


 龍から教えをもらった祖父は、家族を大切にするようになり。

 そしてたくさんの富を手に入れることが出来たんじゃないだろうか。

 やがて、祖父は龍音を預かり。龍の教えで得た遺産を、龍音に授けた。


 きっと祖父は、龍と出会ったことで何度も龍の世界の夢を見たのだろう。

 おそらく、龍の女王――龍音の母親と繋がることが出来たから。

 だから、夢枕に立った龍音の母親の顔に覚えがあったんだ。

 遠い昔に出会っていたのだから。


 祖父は、夢で見た情景をおとぎ話にした。

 そしてそれを俺に話して聞かせたんだ。

 当時の俺は小さかったから、龍の姫が実際にこっちに来たり、状況が重なったのは偶然だろうけれど。

 龍の世界の話を知り、俺は間接的に龍の知恵を学んだ。

 だから俺は龍と繋がり。


 俺と祖父は『巫』になったんだ。


 祖父はたぶん、そのことを知っていた。

 だから、俺に龍音を託した。

 自分の意志を受け継いでくれると信じて。


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