第7話 トモダチ
7-1
龍音が正式にうちの家族として認められた。
正式に、我が家の一員となったのだ。
「龍音ちゃん、おめでとう。ようこそ駿河家へ」
パンと鳴らしたクラッカーに龍音は目を輝かせる。
ちょっとした歓迎会のようなものを、おふくろが開いてくれた。
「これで無事に龍音ちゃんもうちの家族ねぇ。おじいちゃんも喜んでるでしょう」
「母さん、龍音って僕の妹になるの?」
「そうなるわねぇ」
「いやぁ、詩音。父さん嬉しいぞ。お前が立派になってくれて。龍音ちゃんを守りながら戦う姿は、一人前の男だった」
「……親父はもうちょっとしっかりしろよ」
机の上に並んだ大皿。
スパゲッティにエビフライ、コーンスープ。
どれも龍音が好きな物ばかりだ。
龍音はそれらを、まるでハムスターの様に頬張って食べている。
その見た目は、小動物そのものだった。
「ほら龍音、あんまり急いで喰うな。お水飲むか?」
「むぐむぐ」
「もう、口いっぱいじゃねぇか。落ち着いて食べな」
何と言うか、祖父の家での一件以来、龍音の表情は明るくなった気がする。
子供特有の無邪気さや、溌剌さが出るようになっていた。
「すっかりお父さんねぇ……」
お袋がしみじみと言う。
俺ももう否定は出来ない。
俺は龍音の父親になったのだ。
とは言え、法的には親子にはなれない。
俺はまだ未成年で、当然そういう手続きは出来ないのだ。
難しいことはよく分からないが、その辺りの手続きはほとんど芳村のおじさんおばさんに投げることになった。
「そう言えばね、朗報といえば、もう一つあるのよ、詩音」
「何?」
「龍音ちゃん、幼稚園、決まったから」
……時が止まった気がした。
「えっ?」
「だから幼稚園よ。芳村のおばさんが手配しといてくれたの。本当、口はうるさいけど仕事は速いんだから。あれだけ優秀だと、おじいちゃんも安心したでしょうねぇ」
親父がゴホゴホと咳き込む。
何気にダメージを食らっている。
親族会の時に何も出来ていなかったし、肩身の狭さを感じているのかもしれない。
しかしながら、明瞭な事実は覆せない。
「待機児童とか、今時、幼稚園入るのも大変って聞くけど」
「都会だとそうみたいだけど、ほら、ここらへん、そんなに人が多いわけじゃないから」
「途中入園とか、出来んの?」
「それも問題ないみたい。あんたが通ってた洛葉幼稚園あったでしょう。あそこで受け入れてくれるって。これで龍音ちゃんも、お友達作れるわね。万事問題解決」
「それで、入園はいつなの?」
お茶をすすりながら俺は尋ねる。
「明日よ」
噴き出したお茶は全て龍音の即頭部に直撃した。
「あらあら、何やってんの。汚いわねぇ」
「きたない」
「いくらなんでも急すぎんだろ! そういうのはもっと早く言え!」
「仕方ないじゃない。色々とタイミングが重なってたんだから」
「でもなぁ!」
相変わらず我が家は滅茶苦茶だ。
思わず頭を抱えそうになる。
そんな俺の気も知らず、お袋は龍音の制服まで用意していた。
「龍音ちゃん、これ、明日から行く幼稚園の制服だから」
「ようちえん?」
「お友達がたくさん出来るところよ」
龍音は幼稚園の服を見て、目をキラキラとさせている。
いつものワクワクしてる顔だ。
問題解決、か。
俺からすれば、新しい問題発生だけどな。
◯
次の日。
龍音の入園日になった。
「それじゃあ龍音ちゃん、詩音、気をつけて行って来なさいね」
「ふーい」
「いってきます」
ちょこちょこと手を振る龍音の手を取り、幼稚園に向かう。
龍音の幼稚園までは俺の高校とそれほど遠くない場所にある。
この辺りはだいたい幼稚園から小、中、高校と近く、進学先も被りやすい。
ほぼ全員が顔見知りになる程度には、同じ学校へ通うようになる。
龍音が幼稚園児か……。
心配だ。
果たして、ちゃんとやって行けるだろうか。
まぁ、我が家に一瞬で馴染んだ順応性の高さを考えると、あまり心配する必要はないかもしれないが。
何がきっかけで龍であることがバレるかわかったもんじゃない。
気を付けないとな。
それに、何だかんだ言って龍音は賢い。
龍の血のおかげなのか、地頭なのかは知らないが。
俺が思っている以上に、色んな物事を理解して、汲み取れるやつだ。
自分の持っている力が特別で、濫用することがいけないと気づいている。
だから、話せば分かると思う。
「なぁ、龍音」
「なに」
「幼稚園では、かけっことかやると思うんだけど、出来るだけ手加減してあげてくれないか」
「どうして?」
「龍音は俺より足が速いし、俺が出来ないことが出来ちゃうだろ? 力も強いし、何メートルもジャンプだって出来る。それってすごいことなんだよ。幼稚園の子たちは、龍音よりずっと運動が苦手なんだ。だから、合わせてあげて欲しいんだよ」
「わかった」
「ありがとな」
頭を撫でると、龍音は心地よさそうに目を瞑った。
出会った当初は無表情な子だと思ったけど、今では普通の子供よりずっと表情豊かで、人間味あふれるやつだと感じる。
「じゃあ急ぐか」
「うん」
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