5-7
その日はほぼ学級閉鎖状態だった。
まぁ、あんなことがあったのだから当然だ。
結構大きな火事だったが、怪我人数名が出ただけで全員無事だった。
奇跡だと思う。
「おぉ! 我が親友よ!」
運ばれた様子を見に行くと、開口一番、哲は俺に抱きつこうとしてくる。
俺はその顔を鷲掴んで遠ざけた。
「命を張って助けに来てくれるとは、やっぱり持つべきものは親友だな」
病院のベッドの上でガハハと笑うその姿は、およそ怪我人には見えない。
「まぁ、元気そうで何よりだよ。お大事に。じゃあさようなら」
「いやいや、ちょっと待ってよ! 寂しいから!」
鬱陶しいことこの上ない。
俺はため息をつくと、横に置いてあったパイプ椅子に座った。
「でも驚いたぜ。火事、全部鎮火したんだろ? 本当ならもっと大規模な火事になっててもおかしく無かったって聞いたぜ」
「……みたいだな」
あの火事をどうやって消したのか。
それを尋ねられると、口を濁すしかない。
龍が消したなんて言ったら、その瞬間、俺は異常者だ。
きっと、龍音が居なければ酷い事になっていただろう。
哲が無事に生きているのも、俺がこうして無事なのも。
龍音が居なければありえなかった。
「すげーよな、友情パワーだな! もう俺、詩音のこと生涯の親友確定してるから!」
少なくとも、この馬鹿には言い訳の心配はなさそうか。
興奮してはしゃぐその姿を見て、俺は思わず笑みが漏れる。
「それじゃあ、元気そうだし今日は帰るわ。哲、明日には退院出来るんだろ?」
「軽く火傷はしたけど、体に異常もなかったからな。すぐ出れるって。そういや学校は?」
「今日は当然休校。けが人も出てるから、明日は様子見だってさ」
「なるほどな」
「じゃ、また学校で」
俺がドアを開くと「詩音!」と背後から哲が声をかけてくる。
「ありがとうな、助けに来てくれて」
哲の顔には、本当に屈託のない笑みが浮かんでいた。
「その間の抜けた顔、また見れて良かったよ」
「格好いいだろ!」
「馬鹿。じゃな」
病室を出ると、龍音と茜が俺の前に立っていた。
「もういいの? 哲のお見舞い」
「ああ。お前は顔出さないの?」
「なんか、邪魔しちゃ悪いかなって」
「邪魔も何もないだろ。何年の付き合いだよ」
「……何か、良いね」
「あん? 何が」
「男の子って」
「変なこと言うなよ」
俺はふと、龍音に目を落とす。
龍音はいつもの無表情で、真顔でピースを浮かべていた。
そのちょっとしたひょうきんさに、肩の力が抜ける。
「龍音も、ありがとな」
「おこらない?」
「何で?」
「ちから、つかった」
「ああ言う時はやって良い」
「そうなの?」
「お前の力は、大切なものを守る時に使うべきだよ」
目線を合わせて、頭を撫でると、龍音はいつもの様に目をキラキラさせていた。
◯
その日の夕食。
家族五人で、いつものように飯を食う。
俺と親父とお袋と大樹、それに龍音。
この光景も、もうすっかりと日常になった。
「あんたたち、今日大変だったんだってね。先生から電話あったわ」
「生きてんのが不思議なくらいだよ……」
俺が言うと、親父が愉快そうに笑った。
「まぁ、よかったな。みんな無事で。哲君も助かったんだろう?」
「まぁね」
何だかんだ。
こうして普通に家族で飯を食うことが、特別なことなんだなと感じた。
安堵するのと、平和を実感するのと。
それ以上に俺の心を占めたのは、龍音の正体が龍という事実だった。
「詩音」
龍音が呟く。
「何だ? どした」
「エビフライ、ほしい」
「はいはい、取ってやるから待ってな」
大皿からエビフライを小皿によそってやると、龍音は目をキラキラさせた。
それにしても、一日学校に行っただけなのにずいぶん疲れたな。
この調子で龍音が大きくなって、もし学校に行くことになったら。
どうなってしまうんだろう。
まぁ、龍音はまだ小さいし、その心配は当分先のことか。
この時は、そう思っていた。
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