第45話「疑問が確信に変わる」

「おい、橘優斗!」


 聞き覚えのある声と台詞を耳にし、思わず振り返るとそこには先日初対面を果たしたばかりの同級生、葉隠洋介君の姿があった。

 以前と同じく、どうにも俺は好意的に見られていないらしい。その言葉には、相変わらず敵意のようなものがこめられていた。

 ただ、前と違うのは。


「ねえ、優斗の知り合い?」

「あれ? この間ショッピングモールで……」


 そう、美桜と柚希がいるのである。

 無論、彼もそれはわかっていたことであろう。それでも声をかけてきたというのは……ううむ、一体何の用事だろうか。

 とりあえず、事情を飲み込めていない二人に説明をしてみる。


「こいつは葉隠洋介といってな、会長の弟らしいぞ」


 彼について知りうる情報は以上。ああいや、もう一つ大切なことがあったような気もするけど、ひとまずは黙っておいてやろう。


「へえ、会長に弟さんいたんだ」


 それを聞き、少し驚いた表情を見せる美桜。

 見たところ、柚希も知らなかったようだ。同様に、ビックリした顔をしている。


「……で、俺に何か用か?」


 とりあえず他己紹介は以上。本題に移ろう。


「この間は中途半端なところで話が終わったからな! 以前伝えそびれたことを、今日こそははだな!」

「そうか。ただまぁ、俺に用事ってことなら俺が一人のときに話かけてくれたほうが助かるんだが」


 別に面倒ごとにはならないと思うが、その方が楽だと思うんだ。

 少なくとも、美桜と柚希が聞いても楽しい話にはならないと思う。

 だが、そんな俺の指摘を受けた葉隠洋介は、更に怒りを募らせ始め。


「俺だってそうするつもりだったさ! あれ以来、お前とじっくり話をしようと学園内や登下校時に機会を伺っていたんだ!」

「お、おう……」


 あまりの必死さに若干引いてしまう。

 というか、知らない間にそんなに執着されていたのか、俺は。


「だがな、いつになっても一人きりにならないから、ずっとお前に話しかける機会が無かったんだよ! 何なんだお前は、いつもいつも隣に可愛い女の子をはべらせやがって! お陰で俺も我慢の限界だ!」


 ええ……。

 いや、そんなことを言われても……というか、別にいつも隣に女の子がいるわけじゃ──って、痛ぇ! 何だ、急に両腕から鋭い痛みが……!?


「へぇ……優斗、いつも可愛い女の子をはべらせてるんだ」

「その話、詳しく聞きたいな?」


 右腕を美桜が、左腕を柚希がぎゅっとつねっている。

 皮を抓られているだけだと侮る無かれ、これがめちゃくちゃ痛い! ちょ、辞めて!


「待て二人とも! 冷静になって考えてみろ、いつも俺の隣にいる"可愛い"女の子なんて、お前ら二人しかいないだろうが!」


 そもそも、学園でずっと俺と一緒にいて、登下校も共にしている女の子なんてお前ら姉妹以外いねえよ!

 せいぜい女子と話すとしたら後は北条くらいだが……けど、あいつと喋るときはいつも誰にも見つからないところでこっそりと、だからな。いくら会長弟がストーカーをしていたとはいえ、その現場までは見ていないはずだ。

 だから、落ち着いて……って。


「……そ、そう。私たち、だったのね」

「よく考えたら、私たちずっと優斗君と一緒だもんね……」


 先ほどまでの怒りはどこへやら。

 急にしおらしくなった二人は、何やら顔を赤らめ、ようやく抓んでいた手を離してくれた。


「……って、お前ら俺を無視するな!」


 と、すっかりこちらだけで会話を進めていると、話題の大本となった会長弟がまた爆発をした。

 お前、誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ! と突っ込みを入れたかったが、なんだか面倒くさそうなのでスルーしておく。


「で、結局用事ってのはなんだったんだ?」


 そういえばこいつは俺に伝えたいことがあるとかなんとか言ってたしな。

 さっさとその話を聞いてこの場を去ろう。


「ああ、それだが──」

「おや、洋介と……それから、お前たちもどうしたんだ?」


 会長弟がいよいよ話の本題に入ろうとすると、そこにまさかの人物が登場した。

 件の人物──葉隠椿会長である。


「あれ? 会長、今日は皐月先輩の車で帰るんじゃなかったんですか?」


 そう尋ねるのは、すっかり元の様子に戻った美桜。

 ちなみに会長弟は、突然の姉の襲来に驚き固まっている様子。


「ああ、その予定だったんだがあやめが急用とかでな、結局私は歩きで帰ることになったんだ。それより、私の弟とお前たちは知り合いだったのか?」

「ああ、えっと知り合いというか……」

「口は悪いかも知れないが、こう見えて結構いい奴なんだ。仲良くしてやってくれると嬉しいぞ」

「は、はぁ……」


 何だかよく分からないけど、会長が弟のことを褒めているのだけは分かった。

 そしてそれは、正面で固まったままの本人も気づいているらしく。


「クソッ! 話の続きはまた今度だ!」


 顔中を真っ赤にしながら、またも捨て台詞を吐きその場から逃げ出してしまったのであった。


「……なんだ、私は邪魔だったか?」

「ああいえ、別に邪魔ではないですが……」


 ただまぁ、疑問が確信に変わったかな、というくらいで。

 隣にいる美桜と柚希も、何となくだが察したのか。


「「なるほど……」」


 と互いに小さく頷いていたのであった。

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16歳になった双子の幼馴染が、結婚しろとせがんでくる件について。 ミヤ @miya_miya2525

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