ワンダープロジェクトJと私

 砂漠みたいなところで寝転がる男の子がいて、中空に空間が切り取られたかのようなTV画面が浮かぶ。


 わんだーぷろじぇーくと

  わんだーぷろじぇーくと

   わんだーぷろじぇーくと じぇい

   (わんだーぷろじぇーくと)

 男の子がその画面に向かってボールを投げると、TVの中の男の子(ピーノ)がそのボールを受け取って投げたりする。

 わんだーぷろじぇーくと じぇい


 ってCMがスゴイ良くて、これいいなー面白そうって思って買っ(てもらった)たゲームである。メーカーはENIX。


 昔々あるところにスキナーという箱作りが趣味の男がいた。この男は箱を作ってはネズミを閉じ込め、餌を与えたり電気を流したりするのを至上の喜びとしていた。かどうかは知らないけど、「スキナー箱」という箱で有名で、このスキナーさんが「オペラント条件付け」というのを発見したということになっている。なんか格好いい名前だが、なんのこたない、ワンダープロジェクトJで俺たちがピーノに対してやったこと、まさにそのままである。


 ってのはワンダープロジェクトJを知らない人にはなんの説明にもなっていないので、一応説明しておくと、「自発行動に対する報酬、または罰によって行動頻度を増減させるタイプの条件付け」ということになろうか。


 皆さんが良く知るであろうところの「パブロフの犬」でおなじみ「古典的条件付け」あるいは「レスポンデント条件付け」とちょっと違うのは、使ったのがネズミであるというところ、ではなくって、行動と報酬の関係性である。そも、パブロフは生理学者であって、この人はよだれの研究をしたかったそうである。で、唾液腺を露出させたわんわんに、唾液を出す肉(無条件刺激—―わんわんはお肉をみるとよだれが無条件に出ちゃうよ、ということ)を見せつつ、メトロノームかなんかを聞かせてた(中立刺激――それ自体は特になんらの行動も引き起こさない刺激)。そうすると次第次第にわんわんは、メトロノームを聞かせただけでよだれがタラーリ、とこういうのが古典的条件付けであって、こういうのを「条件反射」と呼ぶわけである。この時、報酬(肉)と行動(よだれ)は対提示されているわけで、自発的によだれを出すぞわんわん、ってやってたわけではない。


 スキナー箱の場合はちょっとぱかし事情が異なり、スキナーが手ずから作ったこの箱には、レバーがついている。でこのレバーを引くとネズミちゃんとかハトちゃんが大好きがひまわりの種とかが出てくるよ、とそういう仕組みである。

 我々はそこそこ賢いので、レバーを見たら、「うーんどうすっかな、これ引けってことかな、うーーーんまあ引くか」ってなことくらいは考えられるが、ネズミやハトはそこまで賢かあないので、「そもそもレバーを引くと何事かが生じるであろう」という推論はできないわけである(ネズミは賢く、「このレバーを引くと人間が餌を出すように条件付けてやったぜ」と言っている可能性がある、という風刺画がヘッブの著作にある。ただややこしくなるので一旦この可能性は措いておく)。だもんで、最初は箱の中をあっちゃこっちゃ無軌道に走り回る。


 ところが、この走り回るさなかになんかの契機でレバーをガチャコン、と引くと、餌が出る。また走り回って、ガチャコン、これを繰り返すうちに、ネズミは明確に「餌が出る」ということを理解しているかのように(まあ、していると言ってよいのだろうが、行動主義に敬意を表して)、レバーを押す頻度が激増するのである。


 この場合、例えばそうだなあ、レバーのところに餌を結びつけておいて、レバーを無理やりに引かせたわけではなく、ネズミはあくまで自発的に動いて、動いた結果得られた報酬によって、この動き、行動、を強化したということになる。


 また、仮にこのレバーを引くと、ビリっと電気が流れるようにしておくとしよう。そうすると、ネズミはもちろんあっちゃこっちゃを走り回るが、このレバーにだけは触らんようにしとこ、とレバー周りの行動頻度を下げる。それも急峻に下げる。これを「負の強化」と呼んだりする。


 これがオペラント条件付けであって、も一回書いとくと、「自発行動に対する報酬、または罰によって行動頻度を増減させるタイプの条件付け」ということである。


 それでこれがワンダープロジェクトJそのものだということである。まああとは「がんばれ森川君2号」もそう。あと「アストロノーカ」の敵どももな……あいつらは本当に……。まあこの辺はPSの話なので、ここでは紙幅を割くわけにいかないが(邪聖剣ネクロマンサーは?????)、ワンダープロジェクトJは次のようにゲームが進む。


 プレイヤーはティンカーベルみたいな妖精を操作する。この妖精は何ができるかというと、ピーノというギジン(まあロボットです)にプリンを出す、〇を出す、×を出す、ハンマーでぶん殴るの4つの行動ができる。あと各種アイテムの出し入れもできる。


 ほいで、ピーノの目の前にボールを置くとする。そうすると、ピーノはそれを食べようとしてみたり、首をくるくる回したり、ぶん回して投げてみたりする。食べようとしたり、首を回したら×を出し、投げたら〇を出す。そうするとピーノは、「ボールというのは投げるモノなんだ」ということを学習し、ボールとみると投げてみるようになる。


 で、章ごとにいろいろな展開があって、例えばある時は街の体育大会で優勝を目指してみたり、武闘会で勝ち抜きを目指したり、歌を覚えさせたり、そういうことをやって、J回路と呼ばれる「こころ」のようなものをピーノに身に着けさせるとそういう話である。


 周回プレイが前提になっていて、二周目からはクリア時のステータスとクリアに要した日数によって評価が変わり、S評価を取ると真のエンディング(ワンダープロジェクトJ2に続く)が見れるようになるとこういうゲームだが、まーーこれが面白い。絵もカワイイ。キレイ。シナリオも良い。


 ちょっとしたC/Fe問題みたいなのもあり、若干ギジンが怖がられていたり、逆にギジンを信用する人もいたりするので、そういう人たちの前では、一度覚えさせた「ボールは投げるモノ」というのを、心を鬼にしてボールを投げようとするたびにハンマーでぶん殴ることによって「消去(負の強化)」をし、再びボールを前に首をくるんくるん回させて解決するといった特殊ギミックもあって、やりごたえは抜群である。


 というわけで、後年、心理学の授業でオペラント条件付けを学んだ時、俺は「ワンダープロジェクトJじゃねーか!!」って叫んだ。のは嘘だけど、ほぼ叫びそうになった。その時のテストなんか楽勝だった。俺の心の中にはピーノがいたからだ。


 また、このゲームを最高に効率良く、つまりS評価を取ろうとプレイすると、「プリン」という強力な報酬(ピーノの好物はプリン。かわいい)を使っていくのが重要で、ハンマーとかはほぼほぼ使わないほうがいい。というのは、。お分かりかな? 


 これってわりに現実にも適用できる考え方だと思うのである。

 つまり、例えばあなたが自分の部下に、「仕事が終わったら報告書を書いてもらいたい」と思ったとする。この時、「報告書を書いたらベタ褒めする、なんならプリンをあげる」ということにかかるコストと、「報告書を書かなかったときに激おこになる」ということにかかるコストを比較してみていただきたいのである。


 たとえば仕事が終わって直帰した部下に一旦キレる。そしたら次からはこの部下は、直帰こそしなくなろうが、スマホゲームをして時間をつぶすかもしれない。何スマホゲームやってんだ、ぶん殴るぞ、ってなると、スマホゲームはしなくなるかもしれないが、意味もなく掃除を始めるかもしれぬ。掃除は掃除担当の人がやるからいいんだよ、考えて動けオメーはよぉ。ってやってくのは、すごく大変だ。あなたが思う理想の行動は一つしかないのに対して、不適応な行動は無数にあるからである。


 それよか、まあほかの行動はある程度無視する。で、今日のまとめっす、とか言って報告書を書いてきたときに、ベタ褒めのあげくうまいプリンを買ってくる、という方が、明らか楽ちんでしょう。まあこんくらいだったら、レスポンデントでやってもいいかもしんないけども、そういう考え方をしておくと、少なくとも自分が怒るコストは下がる。


 っていいつつ、日々俺も怒り心頭に達したりしてるわけだけど、でもまあ知っててそれでもやっちゃうのと、知らんでやっちゃって損するのとはまたちょっと違うと思う。そういうわけで、ワンダープロジェクトJは、面白くってかわいくて、更に学びもあった、俺にとってはかなりの良ゲーだったとそういうことである。具体的な中身はやや忘れているので、「こういうの覚えさせないといけなかったですよね!」トークとかによって記憶を活性化させたい気持ちがある。そういうトークにはプリンを贈りたいと思っている。そうじゃあなくても全然いいんだけど。

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