中書き:攻略本と私

邪聖剣ネクロマンサーと私

 当時のファミコン・スーパーファミコン文化を推進していったものに、攻略本の文化があると思う。今や発売日の夕方には、なんなら発売日当日にはゲームクリアまでの動画すら出てきたり、「取り返しのつかない要素」「裏技・小ネタ」まで網羅されてしまうようなスピード感溢れる時代だが、昔はそうでもなかった。俺がオメガを倒すまでに何年かかったか、という話である。当時のファミ通は、「まだそこかよ!」という段階の"攻略"記事がほとんどであった。まあ実際、そこまで"攻略"するような内容がない、ということもあるだろう。というか、良く考えてみると先々のダンジョンマップとか宝箱の位置とかストーリーをゴンゴン載せられたら、何が楽しくてゲームをやってるんだという話になるので、まあ正しいスピードだったんだろうと思う。

 

 ただ、今になってFF Vの攻略記事を検索すると、たとえば「すっぴんのステータスは、現在マスターしている職業に由来するボーナスのうち最大値を採用する」とかが書いてあって、俺これは知らなかった。単純に、マスターすればするほど強くなると思っていた。そういうことこそが「攻略」なのでは、と思うが、そういう数値的なデータはほとんどなかったように思う。

 もちろん、「ここで【盗む】をすると○○が盗めて、この時点では強いぞ」とか言われると、おってなることもあったとは思うので、まったく役に立たなかったわけではないが、これはどっちかというと、そのゲームをプレイ「していない」人向けの宣伝の要素が結構あったんじゃあないかなあと今更ながらに思ったりもする。

 特に子どもなんて、しがんでしがんで味がしなくなってもまだ噛み倒すくらいの勢いで一冊の雑誌を読むので(俺がいまだにARを読みきれていないのとは好対照である。年を取るというのは悲しいことだ)、そうすると必然、別のゲームの攻略記事が目に入り、ウワー面白そう、なんて思うことがある。それを狙ってたんではないのかな、と思ったりもする。


 ある程度年齢がいったら「ゲーム帝国」のコーナーだけ立ち読みしたり、あと「1999年のゲーム・キッズ」(1999年が本当に訪れるなんて、当時の俺には信じられなかった)を読んだり、そういう楽しみもあって、だからまあ、ゲーム雑誌というのは攻略を謳ってはいるが、実際のところ情報誌なのだろう。るるぶ的な。ここに行きたいな~、という気持ちを誘引すればそれで良いわけで、で実際その気持ちはかなり誘引されていた。ちょろいもんである。


 これは前にもどこかで書いたが、ファミマガという雑誌には、「ウルテク」のコーナーというのがあった。「ウル技」というのは、「ウルトラ技術テクニック」の略で、まあ今共通言語として通じるところで言うと「裏技」である。バグだったり、意図的な仕込みであったりで、特殊な操作をすると、特別なアイテムが手に入ったり、残機が増えたり、行けないステージに行けたり、そういうやつだ。

 この「ウル技」というのは不思議に心を惹きつけるものがあって、自分がやっていないゲームの「ウル技」もなんか見てしまうし、なんだったら「ウル技」基準で面白そうだなあ、いいなあこれやってみたい、と思うことすらあった。これはバグだったり、隠し要素だったりで、フロントに出てくる仕組みではないけど、それが却ってこう、隠されると見たくなるというか。別に俺だけが変態性欲を持っていたわけではないだろうことを証明するのは、『大技林』という本の存在である。

 かなり厚い、ほんとにちょっとした辞書くらいの厚さの、ウル技だけが載った本だが、これは結構人気があった。俺もたまに買ってもらっていた。所有しているゲームソフトなんて、両手を使うまでもなく数えられるくらいであったが、それでも「持っていないゲーム」の「ウル技」を見るというのはなんだかとても楽しかった。ワクワクした。そのゲームをやることよりも下手したら楽しかったかもしれない。


 ちなみにファミマガの「ウル技」のコーナーには、「ウソテックイズ」というコーナーがあった。何かと言うと、その回に掲載された「ウル技」の中には、実はウソがあって、そのウソを見つけて送るとなんか貰えるみたいなコーナーである。

 で、まあ「あるな」とはずっと思っていた。ところがあるとき、スーパーボンバーマンの「ウル技」が載って、それは確か、「対戦モードでだけは、LRを同時押ししながらAを押すと、爆弾ではなくて「画鋲」が生み出される」というものだったと思う。で、画鋲の上を通過したプレイヤーは破裂して死ぬので、新たな戦略が出来るぞ。自分も踏まないように気をつけよう、みたいなやつだったと思う。


 これ、「ウソ技」なのですね。


 確かそれこそ弟と一緒にYAMAHAかどっか行って、でファミマガ読んでだったか、千歳の図書館でファミマガ読んでだったか、ちょっと細かいところは忘れてしまったが、とにかく家までは時間があるが、もう早く帰りたい! すぐ試したい! ってワクワクして、何度やってもうまくいかなくて、アレーなんでだろー、って首をひねって何度も何度も試してみて、ようやく気付いた。これ、ウソ技だ……!


 あの時の感覚、ちょっとなんというか、カイジっぽいていうか。ぐにゃあ~って世界が歪むというか、アレは結構衝撃だった。かなり深く落胆した。落胆しすぎて、「これがウソ技です」ってのに応募してないもんね、多分。せっかく見つけたのに。


 あと、「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」の攻略本なんかは、「ハイラル観光案内のコーナー」とかがあった。あとアレはマリオ3かなあ、なんかその辺の攻略本には吉田戦車の漫画が載ってたりして、とにかく、「攻略」とか「データ」というより、そこにある情報を、楽しそうに・面白そうに見せることが重視されていたと思う。でそれで良かった。


 ところが、あるときこの価値観を覆す出来事が起こった。


 今回のタイトルであるところの邪聖剣ネクロマンサーというのは、これはSFCのゲームではなく、PCエンジンのゲームである。わりに有名で、俺は覚えがないがCMが良かったらしい。あと、敵を倒すとぶしゃああ、って血しぶきが出るのが鮮烈で、今ネクロマンサーの攻略サイトを見ると、どこでも「血しぶき」の記述がある。まあこれは確かに「うわっ」って思ったものである。


 で、まあよくあるRPGなのだけど、

・あるエリアから次のエリアに移行したときの敵の強さの上がり方が半端ない

・レベルアップによるステータスボーナスが乏しくて、装備の影響が強い

・パラメータとしてはすばやさが超絶重要

 といった特徴があり、まあ良く言えばシビア、悪く言えばバランスが悪い。

 敵自体は、ただただ固くて早くなっていくだけなので、たとえば「こいつには火属性が有効だ!」とかはあんまない。なかったと思う。


 で、いつのことだか忘れたが、件の少女漫画家である叔母が、このPCエンジンと邪聖剣ネクロマンサー、そして【ネクロノミコン】と書かれた一冊のノートを貸してくれた。

 今思うとこれ凄くセンスのいいタイトルなのだけど(実はこのゲームの敵はいわゆるクトゥルー神話をベースにしている。ラスボスはアザトース)、当時は「ネクロ」は「ネクロマンサー」の「ネクロ」だろうけど、「ノミコン」って? 「ファミコン」のこと? くらいにしか思ってなかった。なのでそこで盛り上がれなかったのが悔やまれるが、とにかくこれは凄かった。

 各土地の武器防具、入手できるGP(お金)、プレイアブルキャラクターの特徴、魔法の意味、精密なダンジョンマップ、ステータスについての考察がぎっちり書かれたスゴイ「攻略本」だったのだ。なぜかフィールドマップに落ちている「トルース」(でたらめに強い武器)「エルサーパ」(めちゃめちゃ強い魔法だが、最初はINTが足りなくて使えない)の位置まであった。


 で、このデータを見ながらちりちりと進めていけば、たまーに「○○GPためたら、町に到着するまではひたすら逃げろ、逃げ切れなかったら諦めるしかない」みたいなところはあるにせよ、かなりの難度のこのゲームを諦めずに「攻略」していける。スゲーと思った。それはそれで楽しかった。こういうデータ的な詳細を知る楽しみもあるんだなあ、ということを漠然と思った。


 この時の思いが正しかったことを証明するかのように、特にFFシリーズの「アルティマニア」が象徴するように、もちろんゲームのボリュームが増えまくって、書くことが沢山になったこともあるんだろうけど、ゲーム発売後一定の期間で、ものすごい詳細な攻略本が出てくるようになった。今本屋でゲーム本のコーナーを見ると、設定資料集とかビジュアルブックとか、ものすごく豪華な装丁の分厚い本が沢山置いてある。


 きっとそういう本も楽しいと思うし、このデータ的な楽しみもとてもいい。それは良く分かっている。でもあの時の、「何も載ってねーじゃんか!」と思いながら隅から隅まで読んで、味がしなくなるまでしゃぶりきったあの攻略本・攻略雑誌も、結構悪くなかったと思うのである。

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