アクトレイザーと私(上)

 どそど♭みれっそっ ふぁっどっ♭みっどれら♯ふぁられー

 ら♯そらどれ♭みど そっ♭らっどっしっ♭みっれっ♭らっそっ

 (てれててれててれててれててれてて)

 ♭みーどれ♭みっどれ♭みっそっ ふぁーどー

 ♭みーどれ♭みっどれ♭みっそっ ふぁーどー……



 これはフィルモアのテーマ(ACT 1)だと思うが、さて皆さん、支配が好きかな?


 大好き? そうか。意気軒昂で結構なことである。

 なんなら世界を支配したい? すごい。うまいこと良いトラックに轢かれることをお祈り申し上げたい。魔王ルートは楽ではないと思うが、それなりにテンプレも確立したころだろうから、事前調査も可能だろう。


 嫌い? なるほど。どっちかというと隷属の方がいい。ふむふむ。

 尽くしたい。見守りたい。言われた通りに動きたい。レールを敷かれてその上を粛々と歩きたい。


 安心して欲しい。どっちでもOK。どっちもいける。

 それが「アクトレイザー(QUINTET/ENIX)」である。


 1993年4月、俺は森町から千歳市に引っ越した。

 そこで沢山の新しいことを知り、FF Vをいいだけやった。3.5週はした(一回データを上書きされたため)。

 

 FF Vはやるほどに新しい発見があり、色々なプレイスタイルが楽しめる素敵なゲームだったが、それでもいつか限界は来る。

 弟の誕生日(11月)が近づくにつれ、俺たち兄弟は新しいゲームが欲しくなった。


 そこで俺たちが選んだゲームが、この「アクトレイザー」なのである。

 

 ここで皆さんは少々疑問に思われるかもしれない。

 アクトレイザーが1990年12月にとっくに発売され、発売からすでに3年近くの時が経っているソフトであることを知らなくても、1993年に出たゲームが何かを知らなくても、たとえばFF Vでそれだけ大騒ぎしたんだったら、FF IVは? とか。同じENIXのソフトなら、もともとやりたがっていたドラクエ Vは? とか。ローンチソフトであるところのマリオは? とか、そういうことを思うだろう。


 もちろんやった。それぞれに思い出があり、語りたいことは沢山ある。

 どうやって? 小学2年生の分際で、どのようにそれらのソフトをプレイしたのか?

 それを説明するためには、ゲームの話の前に、一人のともだちの話をしないといけない。早くアクトレイザーの話で「それな」「わかる」「あのナスカの地上絵みたいなのがあるステージで地震を起こすとさあ」って盛り上がりたい皆さんには大変恐縮だが、少しだけその話にお付き合いいただきたい。



 千歳市に転校して、一気に人間関係が変わった。

 これで1年生からだったらまだマシだったと思うが、2年生。また森小学校は、田舎であるが故にそこしか小学校がなく、相当数クラスがあったのだが、千歳は半端に市なので(別にディスるつもりはない)、クラス数もさして多くなく、ほぼ全員がすでに顔見知り状態だった。

 まして俺はスポーツも苦手で(今はどうか知らないが、当時の小学生の価値観のトップは「スポーツが出来る」、次に「面白い、お調子もの」であった)、そのうえ性格が若干アレ、文化も言葉も少し違う。持ってるSFCソフトはFF Vだけで、そのソフトの知識もみなより少し遅れている。

 別にいじめにあったとかそういうことはない(と思う)(気付いてないだけだったらウケる)し、さみしかったわけでもない。ただ、放課後つるんで遊ぶ仲間はいなかった。それでてくてくと家に帰って、FF Vをやっていた。


 週に一度、ショッピングモールというかスーパーに入っていたヤマハでエレクトーンとピアノを習っていた。最初の一回か二回は母親がついてきていたと思うが、すぐに俺はバスの乗り方を覚えたし、所詮ショッピングモールというかスーパーなので、買い物好きの母親とは言えいて楽しいところではなかったようで(俺は本屋があるから好きだった)、バス代と、それから弟のレッスンを待つ間に好きな本なり雑誌なりを買っていいよ代を貰って、俺は弟を連れてそこに通っていた。 

 今考えると結構これどうなの? って思わなくもないが、当時は別に疑問も抱いていなかった。いなかったが、良く考えると、レッスンメイトは基本的に親なり祖父母なりと一緒に来ていたと思う。たぶんそれでだったんだと思う。そこで俺はTという男の子と知り合った。

 

 Tは当時そんなには多くなかった鍵っ子で、ひとりっこだった。Tの母親には一度だけ会った、というか見たことがあるが、派手で、確か紫色の髪で、とにかく俺はびっくりしたような記憶がある。とにかく日中はいなかった。

 その代わり――なのかどうか、そもそもそれは「代わり」になるのか、面と向かって聞いたことはないので分からない――、Tの家にはでたらめな(当時の俺にとって)量のSFCゲームソフトと、漫画があった。


 FF IVがあった。ドラクエ Vがあった。ロマンシング・サ・ガがあった。スーパーマリオワールドがあった。F-ZEROがあった。シムシティがあった。とにかく当時のファミ通で大きなページを割かれていたゲームは大体あったように思う。

 すげーなと思った。それで、Tの家は学校から少し遠くにあったけれど、三日にあげず通った。もともと幼稚園の時分から図書館に勝手に寄って帰るタイプの子どもだったし、特に誰からも文句も言われなかった。


 Tの家には対戦用のゲームはほとんどなかったので、俺とTが一人用のゲームを変わりばんこでプレイした。Tはもちろんほとんどのゲームをクリアしていたので基本的には俺は教えてもらう立場だが、スーパーマリオワールドで、ヨッシーを犠牲にするチーズブリッジの隠しゴールを発見したのは俺だったし、ロマンシング・サ・ガは二人とも如何ともできなかった。 

 

 だから俺たちは対等――というか、支配・被支配関係にあるなんて俺は思ってもいなかったけれど、傍からみればそれは違ったのかもしれない。

 Tはゲーム、というか自分の財産を使って俺を支配していた、と言って言えないこともない。なぜなら、俺の弟の誕生日に「アクトレイザー」を買うのを決めたのは、実質的にはTだったから。Tは「アクトレイザー」を持っていなくて、でこれが面白そうだということを強くプレゼンしてきた。俺は(こんなにゲームに詳しい)Tが言うなら、と思って、弟を抱きこんで、で親としても3年前のソフトなので中古で買えるし、我が家の二本目のソフトは「アクトレイザー」に決定した。

 これは支配だろうか? 俺はTに隷属していたのだろうか?


 支配が好きかな? それとも隷属が?


 安心して欲しい。どっちでもOK。どっちでもいける。

 それが「アクトレイザー」である。 


 (長くなったので続く)

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