FINAL FANTASY Vと私(下)

 人生は選択の連続で、そこでする選択は「はい」と「いいえ」の二つ、みたいなことなら楽でいいけどそうではない。無数の選択肢があって、時にはそこに選択肢があったことにも後で気づくありさまだ。そういうことの連続こそが人生だ。とするならば、FF Vはまさに人生だ。


 第一世界での全部のクリスタルを砕き(砕くことが目的ではないんだけど、まあ後半は「はよ砕けろ」って思ってしまう。そういう人間の醜さがこの世界を……)ジョブも全部揃う。それじゃあそこで選択は終わりか? というと全然そんなことはない。


 分かりやすいところで言うと、「封印城クーザー」。そもそも第二世界でここに行ってもしょうがないのであるが、行けてはしまう。行くか行かぬか、それも選択肢の一つである。でまあ行くでしょう。ここにははちゃめちゃに強いシールドドラゴンが湧き、そして各武器種の強力な武器が眠っている。


 素直に強いエクスカリバー。色々なジョブで使えるし、デスも発動するアサシンダガー。エルフのマントみたいにたまに回避が効くさすけのかたな。竜騎士がイマイチでさえなければ強いホーリーランス。どうやって使うんだルーンアクス。名前もかっこよけりゃあ確定先制が取れるマサムネ。狩人使ってたら強いらしいぞよいちのゆみ。たまにファイガが発動するファイアビュート。「無限フェニックスの尾」ことけんじゃのつえ。(上)で書き忘れたが、各種ロッドは使うと壊れてガ系の魔法を発動できて、これが強いんだ。750 ギルなのでそこそこ高いが、序盤の助けになる。じゃあウィザードロッドは!? いったいどうなってしまうんだ!? のウィザードロッド(ちなみに何も発動しない)(しないのよ)。どう使えば良いのかアポロンのハープ。時々地震が起こるぞだいちのベル。


 この時点ではまさに「眠っている」だけだが、後々ではあるが、ボスを倒すと石版が手に入って、1個の石版につき3つの武器を解放できる。

 エクスカリバー(つよい)とマサムネ(つよいし、侍もつよい)まではすぐ決まる。バーサーカーは使いにくいのでルーンアクスは最後の方になる。んだけど、この中間が結構悩むのである。まあその時使ってる職業で決めりゃあ良いし、更に言えば石版は都合4つ手に入るので最終的には後先なので、そこまで悩む必要もないが、これが他の選択肢と絡み合ってきてしまう。


 たとえば(実際にはこれらの武器を入手できるようになる前の話であるが)、エクスデス城とかピラミッド、大海溝には歩くとダメージを受ける地形が存在する。そうすると、このときは「ダメージ床」のアビリティを持つ風水士を一人は入れたくなる。ってことを考えると、早めに「だいちのベル」を取っておいたほうがいいか……? あるいは、この攻略法はもう少し先の未来で知ることになるが、時魔法「レビテト」でもダメージ床はキャンセルできる。まあ時空魔法を育ててなければここでは時魔導士が欲しくなる。ってなると時魔が装備できるウィザードロッドか? それから、石版を入手できるダンジョンにはゾンビ的なやつが多いので、意外と吟遊詩人になっといてレクイエムをぶっ放すという戦法が有効だったりする。ってことはアポロンのハープとやらを取っておくか……? 

 でも「けんじゃ」はドラクエ3の影響で憧れのジョブ、これはけんじゃのつえは早めに欲しいよなあ……。


 みたいにね。まだまだ悩むことは沢山あるのである。


 例えば第二世界での「ギルの洞窟」。高確率でエンカウントする、くっそ強いギルガメにどう対処するか? 

 例えばムーアの村での「チキンナイフ」か「ブレイブブレイド」の選択。

 ちなみにこれは、「逃げた回数」によって攻撃力の決まる武器で、チキンナイフは逃げれば逃げるほど強くなり、ブレイブブレイドは逃げれば逃げるほど弱くなる。なお、「逃げた回数」は入手前のものも参照される。小学一年生当時、「わかんないけどブレイブブレイドってつよそう!」って思ってブレイブブレイドにしたけど、皆さんは俺がガルキマセラから逃げまくったことを覚えておられるだろうか。弱まっていた。悲しかった。

 更に言えば、第三世界、っていうか第一世界と第二世界が融合した新世界は、ある程度シナリオを進めると、実は石版を取らなくてもラストダンジョンには突入できる。いついくの? 今なわけねーだろ! 全部取るわ! まあこれは後年のゲームではありがちな仕様だが、当時はびっくりしたよね……。


 そしてラストダンジョンを徘徊する、ラスボスの20倍は強い「オメガ」。

 ラストもラストの宝箱を開けると出てくる、ラスボスの10倍は強い「しんりゅう」。こいつらをどうするのか。もちろん「無視して世界を平和にする」選択をすることだってできる。しかしまあ……いるじゃあないですか……徘徊してるでしょう……。戦う。負ける。「ラグナロク」を手に入れた! 欲しいでしょう。さんごのゆびわだ! (vs しんりゅう)負ける。なんだよこれ。


 「しんりゅう」はまだかわいげがあるのよ。同じフロアに出てくる「すいしょうりゅう」からたまに盗める「ひりゅうのやり」が強くて竜特攻、さらに「竜騎士」というジョブがある。まあなんとなく見えるでしょう。

 「オメガ」はほんとお前……ほんとな……なんなんだお前……。


 ところで以前、別のエッセイで「愛だけが俺たちを自由にする」ということを書いたが、今攻略情報を調べて衝撃の事実を知った。オメガには「愛のうた」(全体ストップ)が有効なのだそうである。へえーーー! 機械生命体が愛を知って、動きを停める。その隙に撲殺する。いい話なようなそうでもないような。


 ちなみに俺は小学六年生になるまでオメガを倒せなかった。

 「魔法剣サンダガみだれうち」が強い、ということを知ってようやくだ。


 とにかく、そのような多数の選択をどうにかこうにかく乗り越え、時には迂回し、エンディングを見る。充足感に充たされる。



 4月。

 俺はものごころをゲットした森町を離れ、千歳という空港と自衛隊の街に引っ越した。森町よりは遥かに都会で、そこで俺は色々なことを知った。


 カトブレパスってなんだよ……ノーヒントだろ……(実際はヒントがある)。

 げんじのこてってなんだよ……ノーヒントだろ……(まあこれはノーヒントかなぁ)。

 ものまねしってなんだよ……ノーヒントだろ……(一個取れない破片があったことを覚えておき、潜水艦を入手した後「塔が沈んだこと」を思い出せばいいので、正当なヒントが出ている)。

 「ピアノマスター」ってなんだよ……「チキンナイフ」と「ブレイブブレイド」の仕様ってそうなんだ……「すっぴんマスター」ってなんだよ……ノーヒントだろ……(すっぴんマスターは確か一応「極めれば最強」的なヒントがある)。


 この世界には、俺の知らない「選択」がまだあった。俺の気付いていない選択肢が沢山あったことを俺は知る。


 で最初からやり直す。ギルガメの倒し方を知り、カトブレパスの居場所を知り、青魔法のラーニングを知り、「盗む」はとにかくやっといた方がいいことを知り、レビテトと時魔法の有用性を知り、ラストダンジョンでのABP稼ぎを知り、とにかく何年経っても新しいことを知れるゲームだった。何しろ俺さっき「愛のうた」が有効だって知ったからね。良いゲームだ。


 入手当時幼児だった弟がゲームをプレイするようになり、俺の丹精こめて育てたデータに間違って自分のデータを上書きしてしまって、「世の中には取り返しのつかないことがある」ということを学んだりもした。大げさに言えば、俺はスーパーファミコンで人生を学んだのかもしれない。


 そのようにして俺はスーパーファミコンと出会い、そして絆を育んできた。

 沢山のことを学んできた。

 その最初の一歩は、間違いなくFINAL FANTASY Vだったのである。

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