思い出深いソフトと私

FINAL FANTASY Vと私(上)

 人間の記憶はいくつかのやり方で分類できて、そのひとつに、長期間持続する記憶をさらに細分化するというやり方がある。

 ひとつ目の階層は言葉で説明できるかできないか、というのは実は半分嘘で、実際的には言葉で説明できるものと、運動の記憶に分かれている。じゃあ匂いとか味は? というと、実は行き先があまりない。


 でもまあそれは一旦措いておくことにして、言葉で説明できる方の記憶をさらにディグると、鮮明な、エピソードとして語れるような記憶、個人的な記憶、その名もズバリエピソード記憶と、エピソードとしては語れないけどなんか知ってる、集団に通用する、辞書的な意味記憶に分かれることになっている。


 たとえば皆さんは「木」という字を書けるだろうと思う。俺はたまに「水」と区別がつかなくなるが、皆さんほどの知能があれば百発百中でいけるだろう。


 そんではそんな賢い皆さんに聞くが、「木」という漢字、あるいは「水」でもいいが、いつ、どこで、どうやって覚えましたか。




 たぶん思い出せないのではないかと思う。そういう個別的な出来事から切り離され、意味だけが残っている記憶が意味記憶である。


 俺はいろんなゲームのことを覚えている。それぞれのゲームの中身は鮮明な記憶で俺の中にあって、俺の背中を少しだけ支えている。でも、ゲームを入手した瞬間までを鮮明に、エピソード記憶として覚えているものはそうはない。

 

 別にだからエライとかだからスゴイとかそういうことではないんだけれど、数少なくはある。その数少ない、レアなものが、FINAL FANTASY Vだと、そういうことなのである。


 1992年、12月25日、小学一年生のあの朝だ。森町の冷え切った官舎、セントラルヒーティングなんて洒落たものはなく、朝起きたら吐く息は白くて、急いで灯油ストーブをつけなきゃあならないあの古い家。クリスマス・イヴの夜、わくわくして眠れないよぉと思いながらスヤァと眠って、まだ真っ暗な夜中に目覚めて、枕元。


 そこにスーパーファミコンと、FINAL FANTASY Vがあった。正確に言うとラッピングされた箱があって、まず猛然とラッピングを剥ぎ取って、天野喜孝の格好いいパッケージを恍惚と眺めて、ストーブもつけずに弟を叩き起こし、白い息を吐きながらファミコンのアダプタと配線を必死でつなぎ変えて、毛布にくるまりながらスーパーファミコンの電源を入れる。


 美麗な--なんて今言うと笑われるかもしれない。でも当時の俺にとってはこのうえなく美麗なグラフィックで、荘厳な城に飛竜が飛んでくる。画面が切り替わって、巨大な隕石が堕ちてくる。


 世界だ、と思った。


 ステージでも、ワールドでも、面でも、エリアでもなく、「世界」がそこにあった。ドラクエ3は本当は「世界」だったんだけど、あの時はまだよく分かってなかったのが一つ、あと敵がほら、黒背景で出てくる。木とかも「記号」って感じがひしひしとある。

 FFVはさぁ。風景で、敵と戦うときは背景が変わって、とにかくウワァー「本物」だー!! 「本物」の「別世界」だぁーッ! ってなった。あの感じ、ああこれが「世界」だって感じ、あれは忘れられそうにない。


 それから登校時間まで必死でゲームをやって、嫌々学校に行って、冬休み、三学期、春休み。俺はとにかくFFVに夢中だった。


 ここで一応(地下労役32年とかをようやく勤め上げた皆さんなどに)説明しておくと、FFVはいわゆるところの王道RPGである。つっても、ドラゴンクエストシリーズと違うのは(最近のドラクエはそうでもないが)、役割ロール演じるプレイングというよりは、「そこにある世界」を鑑賞するというか、まあどうやったって俺はバッツにはなれないわけで、カッコイイ彼らが旅する様を見守るというか、そういう感じに近い。

 流浪の旅人バッツが、王女様であるところのレナと、「かいぞくのおかしらが女なんておかしいかい?」ファリス(余談だが、ドラクエ3とFFVをやると、「かいぞくのおかしら」はむしろ女性であるべきなのでは、と思う)、そして記憶喪失のおじいさんガラフとその孫クルルと共に、世界に生じた異変――というのは、この「世界」では、地水火風それぞれの自然現象を「クリスタル」というのが管理? 制御? 生成? とにかくそういうのをしているのであるが、どうもそれぞれの自然現象がおかしなことになっている――をなんとかするために旅して回る、とそういう話である。


 ほいでまあ、言われるがままに(美しい)世界を駆け回って、風のクリスタルが祀られている風の神殿のボスを倒すと。


 風のクリスタルが砕け散ってしまう! ウォァー! なんたること! ゴウランガ!


 と嘆いてばかりもいられない。クリスタルがこっちに語りかけてきて、「お前らなんとかしてくれろ」と言う。だだだって、なんとかったって、お前もう割れてるじゃん、もうダメ、終わり、そういう気持ちになっていると、クリスタルが力を貸してくれる、と言う。


 でこれがFFVの最大最強の特徴なのだが、このクリスタルのかけらを拾うと、ジョブチェンジが出来る。それも、Lv20になってダーマ神殿に行って、転職したらLv1からな、とかそういうまだるっこしいことは一切言わない(ドラクエ3をディスってるわけではなく、あれはあれで楽しいと思っている)。メニュー画面からボタン一発で転職OK。しかもだ。こっちのプレイアブルキャラクターは4人(上で5人いましたけど? と思ったあなたは幸いである。今すぐやりましょう)。対する職業は、最初の最初ですでに6つあるのである。

 ナイト・モンク・シーフ・白魔導士・黒魔導士・青魔導士。

 

 まあ主人公格であるバッツは男だし、そりゃあナイトだ(性差別主義者の豚だと罵っていただいてもかまわないが、当時は小1だ。見逃してくれ)。

 でまあ、ヒロインっぽいから、レナは白魔導士かな。

 黒魔導士ってのはまあ、ドラクエ3で言うところの「魔法使い」だろう。ってことはジジイのガラフ。

 ここまではまあまあすんなり決まる。ファリスをどうしようってなるわけ。

 今でこそ、青魔法は強いってことを知っているが(参考:https://anond.hatelabo.jp/20170829155932 )、当時は良く分かっていない上に、見た目がね。なんか仮面っていうか、なんだあれ、グラサンみたいなのをかけてて、今ならわかるよ。蝶野攻爵がつけてるみたいなやつでしょ。カッコイイよ。でも当時は「ダセーな」って思ってしまった。

 モンクはなんとなくナイトと被る感じがある。でもなー。シーフ? 弱そうじゃね? 

 

 なんて悩んでる暇があったら先に進めばいんだよ。だってボタン一発で転職OKだもん。でもできないんだなあそれが! ここでの最高の組合せはなんなのか……でうんうん唸る。FF3が先駆的な大量職業システムをやってたらしいが、俺はFF3はプレイしていないので、これが始めての体験だ。めっちゃめちゃ、悩みに悩んで、結局なんか「海賊」との親和性で「盗賊」、つまりシーフにする(これはそれなりに正解だった)。


 っていう悩みを、計4回、20職業に対してやるわけよ。贅沢すぎるよ。頭が沸騰しちゃう。した。何回知恵熱を出したか分からない。


 そんで皆さん覚えていますか。俺はいまだに覚えているぞ。

 ガルキマセラ。


 こいつ弱そうな見た目なのよ。ちっちゃくてさ。ゴブリン系で。

 でったらめに強いんだ。エルフのマントというたまに完全回避をできるアクセサリーが拾える城の地下で湧くんだけど、まーーーーーーーーーーーー強い。ほんとに。絶望的に強い。こっちの攻撃は通らないし、相手の攻撃は即死である。そのうえ今調べたら、全属性吸収だって。バカじゃないの?

 

 ところがここでシーフが生きてくるわけですよ!! 「とんずら」という、逃げられる敵からは絶対逃げられるアビリティがあって、それでスタコラサッサと逃げてしまえばOK。結構先制攻撃を受けて死ぬけど、まあどうにかこうにか。


 ほいで水のクリスタルを砕いて(砕くつもりはないんだけど、早く砕けろ、という気持ちもある)、今度はバーサーカー、魔法剣士、時魔道士、召喚士、赤魔道士をゲットする。でまた迷うわけよ。

 

 まず魔法剣士はなんかターバン巻いててださいから良いとして(剣士=バッツという発想なので。レナとかだとターバンは巻かなかったと思う)(それから実際は「魔法剣」は非常に強力なアビリティなのであるが)、召喚士は絶対一人は欲しい。だってシヴァとか必死で倒してたので、そら使えるなら使いたい。で召喚士はね、ツノが生えててカワイイの。悩んだ末にレナを召喚士にする。

 で、赤魔導士がねえ、悩む。こいつは悩む。「しろくろま」は正直どうでもいいちゃあどうでもいいんだけども、そこそこ剣とか装備できる。しかも、最後には「れんぞくま」といういかにも格好いいアビリティが習得できる、ようである。

 当時確かダイの大冒険がアニメでやっててね。これはドラクエなんだけど、「フィンガーフレアボムズ」とかめっちゃ格好良かったじゃあないですか。ようするに「れんぞくま」でしょ? アレって。これは欲しい。


 ところが。


 通常、一回の戦闘で入手できるアビリティポイント(ABP)は1とか。ボスで5とか。

 で、多くの職業の最強アビリティの必要ABPは、せいぜい300とかそこらである。そこに至るまでも、10とか50とか刻みでそこそこのものを覚えられるし、何せ最後の方は「よろいそうび」とか「けんそうび」みたいなわりとどうでもいい(どうでもよくはないんだけど、やっぱ子どもだから、「新しいことができるようになる」のがいいじゃあないですか)アビリティなので、まあ別にいっかな、って感じになるわけですよ。


 そういう前提を踏まえて、「れんぞくま」の必要ABPを見てくれ。

 必要ABP:999。


 バカが考えた技かよ……。いやでもねえ、これは少年心をくすぐりましたよ。うわーどうみてもさいきょうのわざだ!!

 悩みに悩んで、シーフだったファリスを永久欠番、っていうか永久赤魔導士にすることにした。


 バーサーカーと時魔導士は正直大して思い入れがないです。

 時魔導士は確かやりようによってはすごい強いんだよね。クイックとか、ヘイストとか補助系がいいのと、メテオが使えるのは時魔だったと思うんだけど、何しろプレイヤーは子ども、補助のよさは分からない。バーサーカーは普通にどう使って良いかいまだに分からない(ずっとバーサク/操作を受け付けなくなってただ敵を殴りつづける)。

 

 カルナック城からの時間制限のある脱出劇も楽しいというか、もう本当に必死だった。今でこそ、マップを検索するなり覚えておくなり、あるいはレベルを上げていくなりできるけれども、当時はギリッギリのレベル、有効な攻略法もない、マップを覚えておくこともない。そういう状態で燃え盛るカルナック城から脱出するんだけども、まあさすがにまっすぐ逃げだしゃあどうにかなるわけよ。最後のアイアンクローはわりに強いんだけど、全力で倒せばね。

 ところが、である。この城の中にはお宝がいっぱいある。で、このお宝をあけると時間が足りなくて燃え死んでしまう。ムキー! どうすりゃいいんだよ!!

 まあレベルあげていったりマップを作ればいいんだけどさ。当時の俺は(今も)せっかちだったので、とにかく死に覚えをすることにした。で、「エリクサー」はね。所詮アイテムで、まあ何個かは持っている。きっといつか買えるようになるだろう(※ならない)。でも、武器とかアクセサリー(特にここにも「エルフのマント」がある。あと誰も装備できないけど「リボン」)は、手に入れておくときっと役に立つ! だから、装備品のある宝箱を覚えては死に、エリクサーのある宝箱は無視して、それでどーーにかこうにか制限時間以内にこの城を抜け出すわけである。

 あのギリギリのタイトロープ感。良かったなあ。


 そんでまたね、火のクリスタル入手後のジョブがさあ。いいんだよ。

 忍者。二刀流ができる! 分身もできる!!

 魔獣使い。もこもこしててカワイイ! 敵を捕まえて、技を使える!!!!

 (何しろドラクエ5を蹴ってこっちにしているので、「敵を捕まえる」要素には憧れがあった)(一回「はなつ」といなくなっちゃうんだけどね)

 風水士……はまあいいとして、狩人! 「みだれうち」が欲しいぞ! でもこいつは見た目がお洒落だけど、弓が使いにくくて「みだれうち」は結局ゲットしなかった。「魔法剣サンダガみだれうち」という戦法を知ったのはそれから6年後のことである……。

 吟遊詩人は「うた」を入手するたびに使ってはみたが、いまひとつピンとこなかった。こいつはボス戦で使うジョブなのかなあという感はある。

 

 それでまた必死であれこれ考えて入れ替えるわけですよ。この「選ぶ」というのが楽しいんだよね。


 飛空挺を手に入れて、飛空挺を手に入れて向かう先があの隕石!!!!!!!!

 最初の!! アレ!!! そういうことをするか!!!!


 という楽しい展開を経ての土のクリスタル。


 竜騎士。かっこよすぎ。飛竜がかっこいいからさあこの話。絶対バッツ。

 (ところで、「りゅうけん」はイマイチだったような記憶がある。ジャンプがABP10で習得できちゃうので、すぐダブル侍にしたんだったかな)

 侍。これもバッツにしたい。でもまあガラフ。「ぜになげ」が異常に強かった気がする。

 薬士。これはガチの調合を極めるとめちゃめちゃ強いらしい、とは後になって知ったが、? って感じ。

 踊り子。やっとリボンがまともに装備できる!! あとカワイイ。どうせレナは回復メインなので、踊り子にしてリボンを装備させておいた。

 ファリスは終身名誉赤魔導士なので……。


 とここまで5,000字を使って語ってきたが、これでまだストーリーは前半なのである。前半って言うか1/3っていうか。まあでもこっから先は本当一瞬だったような気がするね……。とは言え、語るべきことは山ほどあるので(正確に言うと、語る「べき」ことはなくて、あるのは語りたいことであるが)、ちょっと一回切ります。長すぎるし。すでに。


 キマイラのアクアブレスが異様に強くてびびった話とか、それで一応青魔導士を起動してアクアブレスをラーニングしてそうでもねーなって思った話とか、当時のファミ通の攻略情報が遅すぎて、「今そこの話されてもおせーんだよ!!」ってなった話とか(その代わり、ひとつのソフトを数年にわたって攻略し続けていて、ずーっと後になってから「ものまね士」の取り方とかが判明したりした)、64ページに「レベル5デス」をされてハ???????? ってなった話とか、いくらでも話したいことはあるのだが、このあたりは泣く泣く割愛しようと思う。超長編になるから。

 まあその辺はもし共有できる方がいたらぜひ応援コメントで! 話しかけていただきたい!! コレに関しては俺は強く要求しています。みんなのハートを待ってるゼ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る