魔城1

魔城アニティカ。

この国の最重要機関といっても過言ではない建造物。

しかし国民は、その存在を知らない。

アニティカがあることはもちろん知っている。

では何を知らないのか。

それは、アニティカが国王が所有している機関であるということ。

家族や友を殺め、自分自身にに恐怖を生み出している諸悪の根源が、国王であることを知らないのである。


新たな後輩に仕事の説明を終えたレコは、食堂から自室へ戻る廊下で過去を思い出す。

『これが私たちの仕事』

そう言って死んだ彼女。

『国のために働くことが、私の夢だった』

そう言って死んだ彼女。

『まだ、生きていて』

そう言って死んだ彼女。

みんなみんな、私を置いて行ってしまったのだと、今思い出しても許すことができないでいた。

(許せない?誰を?何を?)

誰もが懸命に戦った。私たちも、彼らも。

誰もが強くなった。身も心も含めて、以前の私たちよりずっとずっと。

それでも終わらない。何一つ終わらせることができない。

44人の少女が終わらせることのできなかった物語を、私たちの手で終わらせると息巻いていた。

結局、どの代よりもあっけなく私たちの戦いは終わってしまったのではないだろうか。

いや、まだだ。まだ私がいる。

あの4人がいつか真実を受け止めることができるように、このばかげた歴史を否定できるように、私はひとりでも戦い続けてみせる。

ギィ…と音をたてて扉を開く。

8年間過ごしたこの部屋は、いつもレコの味方だったと思う。

もちろん、私の味方でもある。

「死にたい…」

一言いい始めれば止まらないこの言葉を、否定も肯定もせずに、私の思うままにさせてくれる。

「…死にたい、死にたい、死にたい…っ、死に…たいっ…!」

とまらない嗚咽。

誰が聞くこともない、先ほどまで抱いていた強い思想とは正反対の言葉を、何度も繰り返す。

思うことを、何も考えずに言葉にすることが、ここでの生活をどれだけ楽にさせてくれるかをレコは知っている。

「ふぅ」

ひとしきり喚いたところで、呼吸を落ち着かせる。

死にたい。

そう思っていることがたとえ事実であったとしても、ここで果たすべき使命は変わらないのだ。

死にたいと思っていることも、強い意志を持って戦おうとすることも、そして友を懐かしみ後輩たちをいとおしいと思うことも、すべて今の彼女の中にある、本当の思いだ。何一つ矛盾してなどいない。

彼女が、レコが自身をこのように定義づけ、動くことができるようになるまで、様々なことがあった。本当に様々なことが。

今日出会った彼女たちにも、同じことが起ころうとしている。

それらは実際に体験してみなければ分からない事ばかりで、誰にどのような言葉をかけられたとて簡単に受け止めることはできない。

だからこそ、多くの言葉を残していかなければならない、と思う。

たった4人の少女だけで大人になっていくために、その他にいたはずのすべての存在を、私はここで引き受けなければならない。

「今日見せたのは、忠誠心の高い先輩の役。」

明日見せるのは、死線を潜り抜けてきた戦士の役。

普段の生活で見せるのは、子どもを慈しむ親の役。

そして。

“アニティカの魔女へ”

これからやってくる彼らに見せるのは

“明日、そちらへ使者を向かわせる。丁重に迎えられたし。”

「肉親の仇――魔女の役よ。」

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一三代目の魔女 あじがお @Azgo

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