第2話 押しかけ姉

 可愛らしい少女のほっぺをつねる。めっちゃ痛い……当たり前だがやっぱり夢ではないようだ。

 長めの髪を鏡の中の少女は不思議そうな顔をして、腕でなぞる。ちょっと持ち上げるとふわっと滞空し、束に戻っていくのをほぼ心を無にして眺めていた。

 そして鬼門であるトイレは幼児のようにもたつき、危うく漏らしてしまうところだった。あと1秒、決心するのが遅ければ大事故だった。

 いろいろあって俺は、リビングの大きめのソファに体を預ける、全身が脱力感に見舞われる。お値段以上で有名な某家具屋のソファは優しく俺の体をすーっと飲み込む。

 ふて寝してやろうとも思ったが、眠れない。なぜ俺は女の子になってしまったんだろうか。その考えがぐるぐると頭上で回っているからだ。

 女の子……どこかこそばゆいような響きではあるが、それを認めてしまったら自分ではなくなるような気もする。

 すでにテレビは確認済みだし、それより情報の回りが早いネットとか調べ尽くした。

 が、めぼしい情報は見当たらなかった。


「もう、マジで無理……」


 可愛い声がリビングを包み込む。朝より声がはっきりと高くなっており、もうすでに男には戻れないような気すらしている。

 てかどうしよう学校、さすがにこんな姿じゃいけないよな。身長は高校生ぐらいもない。千鶴でも高校生の時はもう少しあったような気がする。

 いやちょっと待て……身長の分 胸にいったのか? 千鶴からは考えられないぐらい胸は膨らんでいる。それどころか、身長の割には胸は大きい。いや、そこまで大きいというほどではないが、千鶴に比べるとまだ大きい方と言えるだろう。

「勝った」

 そう確信した刹那――俺はリビング入り口のほうから殺気を感じた。紛いもなく千鶴のものだ。

 右手をぎゅっと握りしめ、殴るという合図を示していた。


「ねぇ、ハルト、あなたハルトよね? へぇ、可愛くなったじゃない……で、私はあなたに何で負けたのか何々で負けた、と続くように四文字で答えてくれるかな?」

「か、髪の毛の……」

「じゃあ、姉を不快にさせたから着せ替え人形の刑に処します」


 悪魔のような笑顔で、こちらを覗いてくる姉は、このあと3時間ずっと俺を着せ替え人形にして遊んでいた。

 ついでに男として少し大切なものを失ったような気がした。

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女の子になるなんてよくある話 くいな @terarera

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